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勇者学校の狂剣士  作者: ヒロ
第三章
23/31

『21』

 シンシアの説得に失敗した翌日、英人たち剣士科の生徒はグラウンドに出て実戦形式の授業を行っていた。


「本日は前回提出してもらったレポートを踏まえて木刀による打ち合いをしてもらう!」


 麗は生徒たちの群衆に向かって宣すると、その後打ち合いが出来るように均等に四列に並ぶように指示を出す。

 それに従い、生徒たちはすぐに四列に分かれた。

 もちろん、英人も四つの列の一つに並んだのだが……。


「あら英人。偶然ね」


 正面にはなぜかカレン・ベルージがニヤリと笑いながら彼を見つめていた。

 右手にはしっかりと木刀が握られている。


「絶対偶然じゃねぇだろ。お前、わざと俺の前に並んだな」

「そ、そんなことないわよ。適当に並んだら偶々英人の前に来ただけよ。決して入学直後の授業の時のリベンジをしようだなんて考えていないわ」


 カレンが目を泳がせながら口にすると、英人はそういうことかと納得する。

 どうやらカレンは入学直後の英人との打ち合いに敗北したことを未だに根に持っていたよう。


「そういえば、あれ以来カレンとは打ち合いをしたことがなかったな」

「そうね。まあアタシはアンタに負けたことなんて全く気にしてなかったんだけど」

「はいはい」


 英人が呆れながら返すと、やや離れた位置から麗の声が響いてきた。


「いいか貴様ら! 本日も本気で打ち合うに! では、始め!」


 麗の合図と共に生徒たちは一斉に打ち合いを始めた。

 当然、英人とカレンもだ。


「今日は負けないわよ」

「そうか。そりゃ楽しみだ」

「あとアタシが勝ったらこの前麗さんとなに話していたのか教えてもらうから!」


 開始直後、カレンが一気に距離を詰めて鍔迫り合いへと持ち込んだ。

 現在は相手がどう出るのか、お互いに様子を見ている。


「どうしたのかしら? もっと攻めてきても構わないのよ」

「そんな言葉に素直に従うほど、俺はバカじゃねぇよ。だが――」


 英人は自身の木刀でカレンの木刀を払うと、後方へ下がり一旦距離をとった。


「あら、アンタが逃げるなんて珍しいわね。もしかして、アタシにビビってるのかしら」

「そんなわけないだろ。今は少し体勢が悪かったから、ひとまず離れただけだ」


 そう言ったのち、英人は地面を蹴り上げ一瞬にしてカレンとの間合いを詰めた。


「っ!」


 不意をつかれたのか、彼のスピードについていけなかったカレンに僅かな隙が生まれる。

 それを見逃さずに英人は彼女の腹部に一撃を入れた。


「ぐふっ!」


 英人の攻撃をモロに食らったカレンはあまりにもの衝撃でその場に跪いた。


「どうした? これで終わりか?」


 見下ろしながら英人が言うと、不意にカレンから攻撃が繰り出された。


「っ!」


 それを英人がギリギリで躱すと、再び彼女と距離をとるために後方へ下がる。

 その後、カレンはよろめきながら立ち上がった。


「終わりなわけないでしょ。まだまだこれからよ」


 強気な口調のわりに、カレンは腹部を押さえて明らかにダメージを負っていた。


「そんな状態で大丈夫かよ。無理に戦わなくてもいいんだぞ」

「心配しなくても結構よ。それに今からアタシが英人に勝つ予定なんだから」


 口角を上げて英人を見据えるカレン。

 そんな彼女を見て、彼は木刀の剣先を彼女に向けた。


「そりゃ楽しみだな。期待はしていないが」

「言ってなさい!」


 叫んだのち、カレンは英人に向かって一直線に突っ込んだ。

 一方、英人はその場から動かずカレンが攻撃してくるのを待ち構えている。


「ハッ!」


 カレンは攻撃の有効範囲内に英人を捉えると、彼の脳天目掛けて木刀を振り下ろした。

 だが英人はそれを難なく躱すと、すぐさま斬撃を繰り出し反撃をする。


「危ないわね!」


 その英人の攻撃をカレンが受け止めると、二人は再び鍔迫り合いになった。


「危ないのはそっちの方だろ。思いっきり頭狙ってきたじゃねぇか」

「別にいいじゃない。木刀だから死にはしないわよ」


 直撃したら大けがなんだが。

 そう思いつつ、英人は体勢を維持したままカレンに隙が生まれるのを待つ。


「英人って模擬戦や魔獣と戦う時と、授業の実戦形式の演習とじゃ戦い方がまるで違うわよね」

「そうか? そうでもないと思うがな」


 英人は否定するが、カレンが言ったことは間違ってはいない。

 模擬戦や魔獣と対峙する際、彼は今のように相手の出方を窺うことはせず、積極的に攻撃を繰り出す。

 しかしそれは異能があるからこそで、木刀による打ち合いでは異能が使用できない。

 ゆえに、英人は打ち合いの時、最も効率よく勝つために、相手が仕掛けてきてから反撃する、カウンター式の戦い方をしているのだ。


「まあいいわ。攻めてこないならまたアタシから攻めてあげるから!」


 不意にカレンの姿が消えた。

 それに英人は一瞬驚きつつも、後方から殺気を感じすぐさま振り返る。

 すると、英人の瞳にはすでに攻撃を繰り出しているカレンの姿が映った。


「ハッ!」


 カレンが振り下ろした剣はそのまま英人の顔面へと向かってくる。

 それを英人はギリギリのところで受け止めると、間髪入れずにカレンから連続して斬撃が繰り出される。


「おいおい。なかなかやるな」


 カレンの連続攻撃を手に持った木刀で受け流しながら、英人は苦笑いを浮かべる。


「当たり前よ。春先のアタシと今のアタシが同じだと思っていたら大間違いよ」


 入学してから今日までの一か月。

 カレンは対魔獣恐怖症を克服し、日々英人と共に依頼(クエスト)をこなしてきた。

 入学直後のカレンと現在の彼女はもう別物と考えていいだろう。

 それくらい、カレン・ベルージは成長している。


「どうしたのかしら。もしかしてもうお手上げってわけじゃないわよね」


 挑発しながらも攻撃の手は緩めないカレン。

 普通の生徒ならこのまま押し切られて終わりだろう。

 だが、英人の場合は違う。

 なぜなら、彼は“普通”ではないのだから。


「っ!」


 突然、カレンの斬撃が躱された。

 ついさっきまでは受け止めるので精いっぱいのはずだったのに。


「カレン、お前はたしかに成長している。だが、相変わらず攻撃が単調だ。次はそこを改善して出直してこい」


 そう告げたのち、英人は自身が握っている木刀を横凪に払ってカレンの腹部に直撃させた。

 それが鳩尾に入ると、強い痛みにカレンは息を吐き出し、その場で倒れ込んだ。


「……しまったやり過ぎた」


 横たわっているカレンを見下ろしながら、英人は呟く。


(つい熱くなってやらかしてしまったな。

 でも、しょうがないよな。

 負けたらシンシアのこと話さなくちゃいけなかったし。

 まあ俺がカレンに負けるなんてあり得ないが)


 そんなことを思っていたら、後方から足音が聞こえた。

 それは徐々に英人の方へと近づいてくる。


「おい、貴様は人の生徒に何をしているんだ」


 そう声を掛けてきたのは麗だった。

 麗はカレンに近寄るなり、彼女の身体を腕に抱えて持ち上げる。

 俗にいうお姫様抱っこだ。


「いや、師匠が本気で打ち合えって言うから」

「それは普通の生徒に対してだ。貴様に言ったつもりはない」

「なんだよそれ。理不尽だ」


 英人の言葉を聞いて、麗は呆れるように溜息をつく。


「それに、貴様は本気なんて出していないだろう」

「……まあそうだが。それなら尚更いいんじゃ……」


 ギロリと麗に睨まれた。

 それ以上余計なことを言ったら殺すぞ、と目が語っている。


「私はカレンを保健室に運んでくる」

「えっ、じゃあ授業はどうするんだ? まだ四十分くらいあるぞ」

「このまま私が戻ってくるまでずっと打ち合いをさせる」


(鬼か、この人は)


 英人はそう思いながらも、これ以上口答えをするわけにもいかないので、麗には言わなかった。


「あと英人。こいつを置いて戻ってきたら特別に私が相手をしてやろう」


 麗が言ったことは、要するに彼女が英人の打ち合いの相手をするということだ。


「えっ、まじか」

「なんだ。嫌なのか」

「いや、そんなことはないけどよ……」


 そう言いながら、英人は明らかに嫌そうな表情を浮かべている。

 そんな彼を見て、麗はニヤッと笑った。


「まあいい。英人がどう思っていようが、貴様が私の相手をするのは決定事項だ。異論は認めない」


 そう言い残して、麗はグラウンドを後にした。

 そして、英人は遠ざかっていく彼女の後姿を眺めながら、どうやってここから逃げようか考えていのだった。


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