『17』
九年前。
カレンの母――マリー・ベルージが死んだ。
醜い魔獣たちのせいで。
そして、その日を境にカレンは魔獣に恐怖を覚えると共にとてつもない憎悪を抱いた。
故に、彼女は魔獣を殺せる勇者を目指すことにしたのだ。
だが、マリーの死がトラウマとなり、対魔獣恐怖症を患っていた彼女は、最初は魔獣の恐怖に打ち勝てず、敵の前で何度も身動きができなくなった。
それでもカレンはめげず幾度も魔獣と対峙することで対魔獣恐怖症の症状をある程度押さえることに成功し、魔獣と戦えるようになっていた。
そんなある日、固有武器を作っている会社から連絡があった。
内容はこうだった。
マリー・ベルージは異能力者であった、彼女の固有武器が既に出来ているので来てほしいと。
それを聞いて、カレンは急いでその会社に行くと、確かにカレンの母の固有武器は現存していた。
その後、会社の関係者にこれをどうするか? と聞かれ、カレンは迷わず自分の武器にすることを選んだ。
母のために、母が残してくれた武器で、復讐をしよう。
当時はそう思って選択したことだった。
だが今となっては違うことがわかった。
カレンは母の、マリーの死をどこか受け入れることができずにいた。
だから、マリーの遺伝子が組み込まれた武器と一緒にいることで、常にマリーが近くに感じられるようにしただけなのだ。
そんな甘えたことをしているから、マリーの武器は使うことができず、こんな幻覚も見えるようになってしまった。
『カレン、安心してください。あなただけは必ずわたくしがちゃんと守りますから』
カレンの目の前に亡くなったはずのマリーがいた。
その上、彼女が亡くなる直前にカレンに掛けた言葉を口にしている。
「お母様……」
違う。これはマリーではない。
それはカレンが一番わかっていた。
でも、マリーは彼女にとって何よりも大切な存在だったから、そう簡単に割り切ることはできないのだ。
今だって本当はどこかに生きているんじゃないのか思うことだってある。
『こらカレン。そんなに走ってはいけませんよ。以前のようにまた転んでしまいますから』
『すごいわ。カレン上手ね』
『ふふっ。カレンのおかげでお姫様になった気分だわ。ありがとう』
すべてマリーが本当にカレンに言ってくれた言葉だ。
これが全部幻聴だっていうこともわかっている。
でも、温かい。幸せな気分になる。このまま何もかも忘れて、この甘さに浸りたい。
ついさっきまで、カレンはそう思っていた。
だが、本当にそれでよいのだろうか?
「…………」
彼は叫んでくれた。
復讐をするのなら、自分の命を賭してでも戦う覚悟をしろと。
そんな彼の言葉に背いていいのだろうか?
「………い」
彼は伝えてくれた。
病気を克服するのなら、左腰に携えてある母の剣を抜けと。
そんな彼の優しさを無碍にしてよいのだろうか。
「……ない」
彼は言ってくれた。
自分が囮になるから、お前は逃げろと。
そんな彼を置いたまま一人だけ逃げてよいのだろうか?
「よくない!」
そうだ。いいはずがない。
カレン・ベルージはたった一人の日本人すら守れないような、そんな人間ではないのだから。
それに彼には今回の依頼で多くの恩を売ってしまった。
それを返さないまま、死なせてたまるか。
『カレン、あなたは心配しなくてもいいのよ。わたくしがずっと一緒にいるから』
またマリーの声が聞こえた。
でも、もう揺るぎはしない。
彼女にはもう必要のないモノだから。
「ごめんなさい、お母様。アタシは行かなくちゃならないの。だから……」
カレンは左腰に備えられてある剣の柄を持つ。
その後思い切り引き抜くと、そのままマリーの幻影を切り裂いた。
「さてと……」
彼女はもう一本の剣――炎神剣を片方の手に持つと、彼がいる方へ視線を向ける。
「さあ、待ってなさいジャパニーズ! 今からアタシが特別にアンタを助けてあげるから!」
☆
「ぐはっ!」
ブラッドドラゴンの尻尾が直撃すると、英人の身体は木に叩きつけられ、地面へと落ちた。
嗚咽感がひどい。胃から何かが出てきそうだ。
「ぐふっ……ハハッ、この数相手に一人じゃさすがに無理か」
カレンと別れて以降、英人は十一体残っていた魔獣を三体殺し、八体にまで減らした。
だが、英人は全身から出血しており、意識は朦朧としている。
これ以上魔獣と戦うのは不可能に近い状態だった。
そんな弱っている英人を見て、魔獣たちは咆哮を上げる。
「嫌なもんだな。弱い人間を見て喜ぶ魔獣なんてよ。今すぐ殺したくなるじゃねぇか」
英人は剣を構える。
しかし、異能が使用可能になるまで、まだ時間がかかる。
おそらく、その間にトドメを刺されてしまうだろう。
「それなら死ぬ前にあと一体、殺してやるか」
英人は一体のブラッドドラゴンへと突っ込んだ。
それは最もダメージを受けていた個体。
彼の剣が一太刀でも与えられれば、必ず絶命するだろう。
「死ね、この化物」
そう呟いて、英人は標的に向けて駆けていく。
しかし、彼の死角から炎が放たれていたようだ。
彼が気づいた時には、既に遅かった。
(くそっ! ここまでかっ!)
英人が諦めかけた刹那、唐突に別の方向から来た炎が彼に迫っていた炎に直撃し、霧散させた。
「っ! これは……」
英人を助けた炎は綺麗な蒼色に燃えていた。
彼は知っている。
この炎を扱える人物を。そして、その者がいればこの絶望的な状況を容易く打破できることを。
「遅せぇんだよ。来るならもう少し早くしろよ」
「助けたのに文句なんて言うもんじゃないわよ。さっきまで死にそうだったくせに」
振り向いたのち、英人がニヤッと笑いながら彼女を見据えると、彼女も笑みを浮かべながらこちらを見つめる。
カレン・ベルージの両手には剣が一本ずつ握られていた。
一本は炎神剣。
創造を所持していた異能者の遺伝子が組み込まれた剣。
そしてもう一方は女神剣。
カレンの身長よりやや短めで、刀身が銀色に輝いている剣だ。
そして、これはカレンの母――マリーの遺伝子が組み込まれた剣。
「双剣士とは、また現代風で格好いいな。カレン」
「褒め言葉として受け取っておくわ。それで、アタシはどれを相手にすればいいのかしら?」
魔獣は残り八体。
左側に五体。右側に三体だ。
「俺は左側をやる。だから、お前は右側をやれ」
「は? アンタ、その状態で戦えるの?」
カレンの目から見ても、英人の身体は明らかに限界だ。
彼女としてはてっきり自分に全て任せると思っていたのだろう。
「カレンが時間を稼いでくれたおかげで異能が使えるようになったんだ。五体くらいなら余裕だ」
そう言う英人だが、カレンにはわかっていた。
カレンがまた魔獣恐怖症を発症してしまうのでは、と気にしていることも。
そして、そうさせないためになるべく少ない数の敵と戦わせようとしてることも。
「断るわ! アタシは左側の五体を殺す。だから、アンタは右側を殺しなさい」
「おいおい、まさか俺の身体のこと気にしてんのか? やめろよ。お前らしくないぞ」
「いいえやめないわ。アタシはアンタを助けに来たんだから。無理して、死なれちゃ困るのよ。
それにアタシは以前よりもずっと強くなってるわ。それを今からあいつらを使ってアンタに証明してあげる」
カレンは剣先を五体の魔獣に向けると、そう言い放った。
(これは何を言っても聞かなそうだな)
「わかったよ。俺は右側を処理するから、カレンは左側を頼む」
「えぇ。わかったわ」
「よし。じゃあいくぞ!」
そう言うと、英人の言葉を合図に二人は左右へと分かれて行った。
☆
英人と別れてからカレンは魔獣たちの元へ着くと、高らかに声を上げた。
「さて、アンタらの相手はアタシがしてあげるのよ。感謝しなさい」
カレンの挑発に何かを感じたのか、ブラッドドラゴンたちは一斉に雄たけびを上げる。
その後、巨体を揺らしながら一斉に襲い掛かってきた。
「全員が突進だなんて芸がないわね」
不意にカレンの身体に紅蓮の炎が出現する。
その後、彼女が剣先を魔獣たちに向けると、炎は物凄いスピードで接近してくる魔獣の方へ進んだ。
「燃えなさい!」
カレンが放った炎は一体の魔獣に直撃すると、生き物のようなトリッキーな動きで次から次へと魔獣を燃やしていく。
しかし、カレンは一回目の戦闘で、この程度では死なないことを理解していた。
やや経ったのち、彼女の予想通りブラッドドラゴンはダメージを負っているものの、まだ死亡はしていない。
「ホント、そんなにしつこいと女性に嫌われるわよ」
そう言ったのち、カレンの身体の周りに再び真っ赤な炎が出現する。
その後、激しく燃え上がっているそれはみるみる美しい青へと色が変わった。
「さて、出番よ炎神剣」
カレンが剣先を綺麗な夜空へと向けた刹那、彼女の身体を纏っているモノとは別に青い炎が魔獣たちの足元から現れ、それはブラッドドラゴンたちの全身を焼き尽くしていく。
悲鳴を上げる魔獣たちたち。
「これであたしの勝ちかしら」
カレンが勝利を確信した瞬間、不意に彼女の死角から複数の炎が撃たれた。
全身を焼かれながらもブラッドドラゴンが隙を突いて放ったのだ。
通常なら確実に直撃するはず。だが――。
「ふんっ。甘いわね」
魔獣たちから放出された炎は、カレンの身体を纏っていた炎が瞬時に処理をした。
おかげで彼女の身体は一切傷を受けていない。
「バカね。今のあたしには死角なんてないのよ。全部見えているんだから」
そう口にしたのち、カレンは視線を銀色の剣へと移す。
『女神剣』
異能――『女神の目』の所有者であるマリー・ベルージの遺伝子が組み込まれた固有武器。
その効果は視界を三百六十度にまで広げられる。
「これでアタシはどんな攻撃に対処できるわ。でも、今日のところはもう必要ないようね」
カレンが見据える先には、五体の魔獣の焼死体。
ドラゴンだからなのか、焦げ臭いが少しだけ肉のいい香りがする。
「さてと、アタシは終わったけどアイツはどうなったのかしら。まさか死んでるなんてことはないでしょうけど」
そう言いつつも、カレンは心配だったようだ。
両腰に備わっている鞘に二本の剣を収めると、走って英人の元へ向かった。
☆
「おっ、なんかあっちは終わったっぽいな」
やや離れた場所から魔獣の悲鳴のような声が聞こえて、英人は呟いた。
「さてと、じゃあこっちもそろそろラストスパートだな」
英人が前方へ視線を向けると、目の前には三体の魔獣が威嚇するように赤い瞳を光らせた。
「おう、コワいコワい。魔獣ってのは何度戦っても恐いもんだな」
そう言葉に出すが、英人は微塵も恐怖心を抱いていなかった。
彼にとって魔獣と戦うということは、己の復讐心を満たせる唯一の行為なのだ。
己の人生を破滅させた魔獣を殺せる喜びはあっても、自分が命を落とすかもしれないという恐れはない。
「じゃあやるか。早くしないとカレンがこっちに来ることもあり得るし」
英人は剣を構えると、三体のブラッドドラゴンと対峙する。
先ほどまでは、異能を防御に使用しつつ、剣で徐々に攻撃を与えていったが、それじゃあAランクの魔獣には致命的なダメージを負わせられない。
「しょうがねぇから、てめぇらにはとっておきを見せてやる」
これまでの戦い、英人はまだ全てを出し切っていたわけではなかった。
いや、そういう状況に至らなかっただけだ。
だが、カレンが救援に入ってきた今だからこそ、彼はようやく更なる力を出すことができる。
「いくぞっ!」
英人は地面に足を踏み込むと、異能――『身体強化を使用したのち、地を思い切り蹴り上げた。
「食らえっ!」
一瞬でブラッドドラゴンの元へ移動すると、彼は魔獣の全身を真っ二つに斬った。
「これであと二体」
そう呟くと、不意に他のブラッドドラゴンから火を吹かれた。
それを英人は異能――『斬月』で火を斬り消滅させる。
「ったく、あぶねぇな」
見事に攻撃を防いだ英人だが、これで異能を使い切ってしまった。
クールタイム三十秒を終えるまで、彼は剣を振るうこと以外何もできない。
「まあさっきまでの俺ならここで万事休すなんだが、今回はちょっと違うぜ」
英人は再び剣を構える。
それに対し、二体のブラッドドラゴンはあざ笑うかのように雄叫びを上げた。
しかし、それも束の間。
「死ね」
いつの間にか英人が魔獣の背中へと移動していた。
その後、彼はあっという間に二体の魔獣の身体を一刀両断した。
直後、ブラッドドラゴンからは二体分の大量の血が溢れ出て、地を赤く染めた。
「ふう、まあこんなもんか」
四つに分断された死体を見て、英人は人仕事を終えたかのように額の汗を拭う。
「さすがアタシに勝っただけのことはあるわね」
唐突に背中から声が聞こえた。
振り向くと、カレンが何とも言えない表情をしながら、こちらに近づいていた。
「おう、そっちも終わったみたいだな」
「えぇ、まあね。それよりもアンタに聞きたいことがあるんだけど」
「? なんだ?」
「アンタの異能って、制限があって連続で使用できないんじゃなかったかしら。なのに、なんで今は続けて使えたのよ」
カレンの疑問は尤もだった。
英人の異能――『身体強化』と『斬月』は一度使用すると三十秒間のクールタイムを挟まなければいけない。
よって、この二つの異能は連続で使うことはできないのだ。
それなのに先ほど、英人が最後の二体のブラッドドラゴンを倒した際、彼は『身体強化』を使っていた。
異能の特性から考えて、これは明らかにおかしいことだ。
「あぁ。それはこいつのおかげだよ」
英人が示したのは、手に持っている剣。
『天羽々斬』
日本刀をモデルにした英人の固有武器である。
この剣には『即回復』という異能を持っていた人物の遺伝子が組み込まれており、効果は異能のクールタイムを一切無くす。
要するに、英人は二体のブラッドドラゴンを殺すとき、天羽々斬の能力を使ったことにより、異能が連続で繰り出せたのだ。
「とまあこんな感じだ」
英人が説明を終えると、カレンは「なるほどね」と何度か頷く。
「でも、そんな固有武器があるならさっさと使えばよかったじゃない。どうしてそうしなかったのよ」
再びカレンから的確な質問を投げられた。
確かに、ブラッドドラゴンと遭遇してしまったとき、最初から英人が天羽々斬の効果を使用していれば、少なくとも彼の身体がこんなにボロボロになることはなかっただろう。
「あのな、俺の異能がなんで一度使ったら、三十秒間使えなくなるかわかるか?」
「なんで? ……そういえば、なんでかしらね」
「身体に負担がかかるからだ」
カレンに言うと、英人は続けて話した。
「俺の二つの異能は使用するたびに、身体に結構な負荷がかかるんだ。だから、無茶して使えないようにクールタイムが出来ているんだ」
「そうなのね、知らなかったわ。……でも、ちょっと待って。ってことは、固有武器の能力で、ホントはダメなのに無理やり連続で異能を使ったってこと?」
「そういうことだ。だから、俺の身体はもう三回くらいは限界を超えている」
カレンが視線を落とすと、英人の足はガクガクに震えており、今にも倒れそうだ。
「ちょっと! これ大丈夫なの!?」
「大丈夫だ。こんな状態には何回もなったことがある。もう慣れてんだよ」
そう口にしたのち、英人は笑った。
しかしカレンは心配になって、彼の腕を自身の肩に回して身体を支えた。
「別にこんなことしなくてもいいんだけどな」
「強がるんじゃないわよ。もう一歩も動けないくせに。抵抗できてないのがその証拠でしょ」
普段の英人ならカレンが肩を貸そうとしたら、どんなことをしてでも拒否するだろう。
だが、今の彼は素直に彼女に身体を預けている。
それだけ大きいダメージを負っているということだ。
「ねえ英人」
「なんだ?」
「そ、その……あ、あのさ……」
カレンはぶつぶつと呟くが、声が小さすぎて英人には聞こえてない。
「なんだよ?」
「えっと……だ、だから……」
そこでカレンは口をつぐむと、大きく深呼吸をした。その直後――。
「ありがと」
カレンの言葉に、英人は一瞬戸惑う。
しかし、すぐに笑って「あぁ」と返した。
いまカレンが放った言葉には様々な意味が込められているのだろう。
対魔獣恐怖症を克服させてくれたこと。
母の剣を抜かせてくれたこと。
そして、全力で自分を守ってくれたこと。
それらへの感謝が全て含まれている。
「そういえばよ、お前に言いたいことがあったんだ」
「アンタから? 一体なにかしら?」
「自分をアベル・ベルージの娘って言うときあるだろ? あれはやめとけ」
英人がそう言うと、カレンはムッとして彼に顔を向けた。
「なによ。別にいいじゃない。ホントのことなんだから」
「よくねぇよ。あれをしちまうと、お前自身の強さが、全部英国最強の勇者の娘の強さになっちまうだろうが。
違うだろ? お前は英国最強の勇者の娘だから強いんじゃない。カレン・ベルージだから強いんだろ」
英人の言葉が耳に届くと、カレンは衝撃を受け、目を見開いた。
それだけ彼が伝えたことは、カレンにとって目から鱗だったのだ。
カレンは今まで幾度となく褒められたことも、讃えられたこともある。
だが、今回はいつもとは全く違うように感じた。
その原因はわかっている。
英人はいま、カレンを英国最強の勇者の娘に対してではなく、一人の勇者を目指す少女に対して言葉を掛けたのだ。
ゆえに、彼の言葉はカレンの胸の奥に大きく響いた。それに――。
「アンタ強いっていったわね……アタシのこと……」
「あぁ、そうだが。なにか問題があるのか?」
「あるわよ! 今までそんなこと言わなかったじゃない。しかも、まるでアタシのことなんか眼中にないような目ばっかり向けて……」
カレンの言葉を受けて、英人は不思議そうに首を傾げる。
「確かに、強いとは言っていなかったが、弱いとも言ったことがないぞ」
「で、でも今までアタシにだいぶ失礼なことを言ってきたじゃない」
「……まあそうだな。ぶっちゃけさっきまではお前のことをフツーだと思っていたし」
「ほらやっぱり!」
「だが、今日のカレンはいつもと違ったよ。
言葉にするのは難しいんだが、その母親の剣を握ってから、お前の強さのオーラみたいなものが変わった気がした。
証拠に、お前はAランクの魔獣を五体も殺したんだ。
これは英国最強の勇者の娘の才能だけじゃできないことだぞ。きっとカレン自身の努力の結果だろうな。すげぇよ」
英人が語り終えると、カレンは恥じるように顔を真っ赤にしていた。
「そ、そう。で、でも、そんなことを神に選ばれた者たちのアンタに言われても嬉しくないわね」
「あぁ、そうかい」
そっぽを向くカレンを見て、英人は笑った。
「じゃ、じゃあもう帰るわよ。さっさとアンタの治療もしないといけないし」
カレンはポケットから転移用紙を取り出す。
その後、彼女はそれを破ると、白く目映い光が発して、瞬く間に二人を呑み込んだ。
英人には一つ疑問があった。
それはなぜ学校の依頼のレベルでAランクの魔獣が出てきたのか、ということだ。
通常、学校の掲示板に貼られる依頼の難易度は最も難しいモノでも、EもしくはDの魔獣が出現する程度。
そのはずが、今回はAランクの魔獣が十体以上出てきた。
これはあまりにも不自然なことである。
それに今回、英人たちが受領した依頼は魔獣の残党狩り。
残党にAランクの魔獣がいるなんて、まずあり得ない。
このようなことから推測するに“英人たちが島に到着したと同時に、何者かがAランクの魔獣を送り込んできたのではないか”と英人は思っている。
では、その者とは一体誰なのだろうか。