1話
「失礼します。大変お待たせしました…って、うわっ‼菜々‼なーにー?どうしたのさ」
むつがきりっとした真面目そうな顔から一転、ぱっと嬉しそうな笑みを浮かべると、ソファーに座っていた女、朋枝 菜々も笑みを浮かべて胸の前で小さくだが忙しなく手を振ってみせた。
「突然、来ちゃった」
「やだ、本当突然すぎるって」
菜々は立ち上がると、むつと抱き合い久し振り、元気だった?などと再会を喜んでいる。
手を握りあったまま、むつが座るように促すと菜々は大人しく座った。むつは当然のように、菜々の隣に座った。
「んで、どうしたのよ?こんな所に…遊びに来たって感じじゃないよね?スーツなんか着ちゃってさ…あ、その前にコーヒーいれなおすね。ちょっと待ってて」
むつは空っぽになってる菜々のコーヒーカップを持つと立ち上がり、キッチンに入っていった。電気ポットで湯を沸かしてる間に、むつは爪の間に入ってる泥を落としていた。
「知り合い?」
「うん、幼馴染みかな?中高は違うけど、幼稚園、小学校、大学は同じなの」
むつがごしごしと手を洗っていると、颯介が入ってきてコーヒーの用意を代わりにしてくれていた。
「社長がチーズケーキ買ってきたけど、食べる?」
颯介が冷蔵庫から取り出した箱をむつに見せると、むつはこくりと頷いた。どうやらもう、完全にダイエット期間は終了しているようだ。
手を洗い終え、お盆にコーヒーカップとチーズケーキを乗せて貰ったむつは、それを持って菜々の所に戻っていった。