672/718
10話
むつは、こつこつと足音を鳴らして少年と男に近付いていく。日本刀は西原に持たせてあるし、手には札さえ持っていない。
「どこに行くのよ」
「帰る」
男の肩に顔を埋めているのか、少年の声はくぐもっていたが、はっきりとした口調だった。
「このまんまにして?」
どこか挑発するような響きのある、むつの声に少年は微かに顔を上げた。今、むつと向き合っているのは、男であり少年の顔は見えていない。しばらく考え事でもするかのように、動かずにいたが再び男の肩に顔を埋めた。
「冗談です、お遊びです。で済む事じゃないと思うけど?無責任よね」
「子供ですから」
くぐもった声には、面白がるような雰囲気が戻ってきていた。少年がまた何かを、思い付いているのかもしれない。




