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10話
少年が男の耳元で何かを囁いたのか、男はゆっくりとむつの方を向いた。何の感情もこもっていないような、無表情さだった。
「これ、このまんまにして帰るわけ?」
大きな声ではないが、むつの声が教会内に響いた。天井と玲子を指差し、むつがどうするのよと責めるような目をした。
「片付けまでして、遊びは終わりにするもんよ?ちょっと躾がなってないにもほどがあるんじゃない?」
むつは日本刀を西原に押し付けるようにして持たせると、黒い霧がまだ無数に漂っているにも関わらず、ゆっくりと歩きだした。天井付近を漂っている黒い霧も、むつが手ぶらで移動をしていると分かると、興味を持ったのか辺りを伺うように近付いていく。だが、むつはそんな物は気にもしないのか、邪魔そうに手で追い払った。追い払うにしても、相手はむつだ。手が触れる前に、ぽっとオレンジ色の炎が上がり、瞬く間に黒い霧を包みこんだ。身をよじって逃れようとしているかのような、動きをしていた黒い霧は、あっという間に跡形もなく消えた。




