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10話
「あっ」
何かに気付いたのかノアが声をあげ、少年の方を指差した。つられて、そっちを見たむつは驚いて何も言えなかった。
「むつ…何だあれ?」
西原が説明を求めてきたが、むつはすぐに答えられなかった。怯えているのか、菜々がぎゅっとむつの腕にしがみついてきた。むつはそんな菜々の手に、自分の手を重ねるようにして手を握りあった。
「何だろうね…ねぇノアさん。みんなにも視えてるって事は実態があるのかそうとうなのか…」
「あれは、そうとうの方でしょうね」
少年がわあわあと泣くとその身体から、黒い霧のような物がするりと抜け出して天井付近をさ迷っている。それも、だんだんと数が多くなってきている。
「あれは…あの子…もしかして生きてる人じゃないの?でも、頬は温かかった気がしたけど」
むつは呟きながら、天井付近をさ迷う黒い霧の塊と少年を見比べた。




