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10話
少年の肩がわずかに震え出すと、いよいよ泣かせたかとむつは少し困り顔で西原の方を振り返ったが、西原は処置なしと肩をすくめて見せただけだった。菜々とダリィを振りほどいて、立ち上がった玲子は何をするでもなく、立ち尽くしている。
やはり、少年からの何かしらの指示がないと動いたりはしないようだ。
「ひっ……たっ…叩いた」
顔を上げた少年の大きな目には、今にも溢れそうな涙が溜まっていた。子供を泣かせた罪悪感なのか、むつは1歩下がった。可愛らしい子供の泣き出しそうな顔を見れば、抱き寄せて慰めてもいいのに、むつはそうしなかった。
何故か悪寒がして、じりっと後退した。
むつがそうして後退すると入れ替わるようにして、男が鞘に納めた日本刀を片手に駆け寄ってきた。




