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10話
西原はまだ散歩でもするかのような足取りで、祭壇の周りをうろうろしている。あまりのんびりな様子に、少年も男も西原を気にかけていないのかもしれない。
むつは剣先が床につきそうなギリギリまで下ろしていた。少年は余裕のなさげな、むつを見てはにこにことしていた。むつは悔しそうに、ぎりっと奥歯を噛み締めた。
そして、目の前にいる男のだけ視線を向けた。男は特に構える事もなく、むつを見ているだけだった。だが、いつまでも動きを見せないむつに焦れたのか、それとも飽きてきたのかするっと流れるような動作で前に出た。
男が迫ってくるというのに、むつはまだ刀を持ち上げない。男が水平に持っていた刀を、上にあげるとむつもよくやく柄を握り直した。
がきんっと刀がぶつかり合い、吐息が顔にかかりそうなくらいの至近距離で、むつと男は睨みあった。




