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10話
むつは左手に、日本刀を持ったまま深呼吸をしながら、ゆっくりと男に近付いていく。あと数歩の所で、男の手が柄にかかるのを見て、むつも柄に手をかけて走り込んだ。
がきんっと金属音がした。むつは左手で鞘を持ったまま、少しだけ刀を抜いて男の刃を受け止めていた。
「まだ、抜く気がないのか?」
すぐ目の前で男が静かに言うと、むつは余裕そうに微笑んで見せた。むつに負ける気がないのか、男はむつをまともに相手する気がなさそうだ。
微笑んだものの余裕など全くないむつは、数歩勢いよく踏み込んだだけで脈が早くなっていた。
「そのうち」
「抜ききる前に死ぬぞ」
「なら、抜ききる時間をちょうだいよ」




