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10話
「…っう…」
まさか玲子に殴り付けられるとは、思ってもみなかったむつは、もろに腹にくらい顔をしかめてよろけた。ノアが咄嗟に腕を伸ばして、抱き止めた。
むつは痛みに顔をしかめたまま、玲子を見上げた。そうとうの力だったのか、むつは両手で抱くようにして腹を押さえている。
「む、むつ?大丈夫!?ちょっと‼木戸さん‼」
菜々が怒ったように玲子の肩を掴み、自分の方を向かせようとした。
「なっ‼ばか‼やめろっ‼」
むつが叫ぶのと玲子が菜々の方を向くのは、同時くらいだっただろうか。玲子はむつを殴った時と同じように、ぼんやらとした表情のまま、ぐっと拳を握っていた。だが、その拳は菜々に当たる事はなかった。横から西原が菜々の腕を引き、抱き寄せると玲子の拳を手で受け止めていた。
「ってぇ…」
拳を受け止めたものの、西原も顔をしかめて手をぶらぶらと振った。西原は高校生の女の子の力とは思えない程の、拳を受けてじんじんと痛む手を見た。




