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1話
さかのぼる事、2週間前。
「たっだいまーっと」
「ただ今、戻りましたぁ」
むつが大学生でアルバイトの谷代 祐斗と共に仕事から戻ってくると、待ちわびていたように、同僚で背の高い爽やか系な男、湯野 颯介が客が待ってると耳打ちしてきた。
「それにしても…汚れたね」
「汚れたの。祐斗と一緒にぬかるんだ道を走り回ったから。着替えないとヤバい?」
顔や髪の毛、足元やズボンにもついた泥は乾いてきたのか、パラパラと床に落ちている。祐斗も同じ様に泥にまみれていた。こちらは、着替えないと呟くと疲れたのか椅子に座った。
颯介はむつの顔と髪の毛にこびりついた泥を指で擦って落とすと、大丈夫だと言って背中を押した。むつは、本当に大丈夫かよと思ったものの、颯介が急かすという事は余程長い時間待たせているのだろうと察した。
机に鞄を置くと、むつは仕方無さそうに奥にある来客用のソファーに向かった。パーテーションで仕切ってあるソファーには、足を組んで悠々と座っている女が居た。




