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9話
菜々が意外と落ち着いて、西原たちを先導して走り出したのを人形を通して見ていたむつは、くすっと笑った。
刀を振って、ついた血をびしゃっと飛ばすと、鞘におさめた。いくら仕事とは言えど、元が絵だと言えど、こんなにも濃く血の臭いを嗅ぐ事がなかったむつは、少しくらくらしていた。気分が優れないとかではなく、何となく楽しいような高揚感を感じる自分を不気味に思っていた。
玲子の言う通り、あまり刀を振るわない方が良いのかもしれない。だからと言って、焦げていく天使を見るのも気分の良い物ではない。どちらにしても、むつにとっては良い事ではない。
「木戸に任せるべきだったかなぁ…」
むつは独り愚痴を溢した。だが、誰からの返事もない。聞こえてくるのは、羽根の音とくすくすと笑う天使の声だけだった。仲間が無惨にもやられて、それでもなお、むつに向かってくる。それに笑ってもいる。何が楽しいのか、さっぱり分からなかった。




