2話
西原がおちゃらけてくれたお陰で、むつは気まずく思う事もあまりなかった。
「よろず屋の下まで送るよ」
急に真顔になった西原にそう言われ、流石にびっくりした。だが、むつは断らなかった。
「ん…お願いしようかな」
「てか、お前遅刻だな」
腕時計を見て、西原が笑うとむつも笑った。今日はすでに携帯の充電も切れていて、連絡の取りようがない。怒られそうな気がしていたが、そんなに気にもならない自分がいた。
「このまま…休んじゃっても良いかなって思わなくもないかな、頭痛がするし」
「頭痛は二日酔いな。けど、そんなんじゃ休んでも何も出来ないだろ?仕事しとけ。それに、ずる休みはよくない…それとも離れがたいとか思ってるか?」
「意外と全うな事言うと思って感心したのに…」
「俺はもう少し一緒に居たいけどな」
西原が真剣な顔で言うと、むつは驚いて立ち止まった。だが、すぐに西原はにんまりと笑った。そして、ごく自然にむつの手を取ると歩くように促した。
「…って言われたら嬉しいか?」
「まぁ、ちょっとはね」
「素直で宜しい。また、ゆっくり会おうな。むつが気まずいとか思わないで居てくれたら、だけどさ」
むつはうんとだけ言った。西原が立ち止まると、むつも立ち止まり繋いだままの手を見た。
「もう着いちゃったな…ちゃんと仕事しろよ?あと、湯野さんと山上さんに謝れよ?遅刻なんだからな」
子供に言うように言うと、西原はむつの手を離して、さっさと帰っていった。むつは西原の背中を見送ると、重たい足を引きずるようにしてエレベータに乗った。




