8話
「だ、だから名前もないの。む、むつに何って聞かれた時もどう答えて良いか分からなくて」
「そっか。そうだよね、けど自分がどういう物なのかは分かってたんだね」
むつは生徒の手を取ると、自分の手のひらの上に乗せた。そして、軽く握った。
「名前か…名前は必要だな。呼びにくい」
「か、考えてくれるの?」
「あたしのネーミングセンスで納得出来る?うーん…犬猫じゃないもんね…こんな時こそ菜々の出番かな?」
ごそごそとポケットをあさり、むつは携帯を取り出した。今はもう圏外ではない。何をするつもりなのかと、生徒は首を傾げていた。
「あ、もしー?菜々、女の子につける名前ってさぁ何が良いかな?今時って、どんな名前流行りなの?」
『はぁ?あんたが?女の子に名前をつけるの?…えっ、もしかして?まさか?』
「そうそう、女の子」
『こんな時にそんな報告だなんて…何を考えてるのよ‼何でもっと早く言わないの?それなら…こんな…こんな…今どこ?行くから‼』
「え?うん…?植物園。あ、飲み物欲しい、先輩も一緒……って切られたよ」
むつは携帯を耳から離して、西原の方を向いた。西原は、困ったような顔をしている。
「うん。たぶんな、すげぇ怒られるぞ?俺もとばっちり食らう気がするぞ」
むつと生徒は手を握ったまま、どういう事なのかと西原の顔を見ながら揃って首を傾げていた。




