1話
珍しく酔ってるむつを連れて、鶏一を出た西原は、家まで送るべきかタクシーに1人だけ突っ込むべきか悩んだ。もう終電もないし西原はタクシーを使うとかなり高くつく。ネットカフェか何かで仮眠を取って始発で帰るつもりでいた。
「あっ」
とりあえずタクシーを探しながら、大通りを歩いていたがむつが何かを見付けたのか、ふらっと居なくなった。繁華街なだけあって、まだ人はそこそこ多い。西原は慌ててむつを追うと、意外と早く見付かった。
むつはたい焼き屋の前に居た。
「むつ、急に居なくなるなよ」
「あ、ごめん。はい」
焼きたてのたい焼きを紙に入れて貰うと、むつは1つを西原に渡した。上機嫌で店員に礼を言い、むつは早速ぱくついている。鶏一で飲み食いしたばかりにも関わらず、甘い物は別腹のようだった。
「呑んだ後に甘い物か…」
「美味しいよ?」
「ダイエットは辞めたのか?」
「明日控えるから大丈夫」
歩きながらたい焼きを頬張ってるむつの口元には、餡子がついていた。西原がそれを指ですくうと、 当たり前のようにむつは舐めた。
「お前…外でそういう事は…」
呑んでも赤くならなかった西原の顔が、ほんのりと赤くなった。




