8話
むつが職員寮に入ると、待ちわびていたのか早速西原がやってきた。近くに居た他の警官たちの視線が、むつに注がれる。
「お疲れの所、お呼び立てして申し訳ありません。お怪我の方はいかがですか?」
白々しくも思える西原の対応に、むつは少し困ったような顔をしながら頷いた。西原も軽く頷くと、むつをエスコートするようにして長机とパイプ椅子のある方へと案内した。パーテーションはあったが、四方を囲むようにはしていない。常に誰かの目が届くようにされていた。
「会話は丸聞こえになるから…な」
椅子を引く音に隠しながら、西原が言った。余計な話は出来ない、という事だ。むつもそれを承知していた。
「体調も優れないと思いますし、手短に…夜、襲われた時の事をお聞かせくださいますか?思い出すのも辛いかと思いますが、捜査にご協力をお願いします」
仕事中は西原を見るのは初めてだったむつは、意外な程にも丁寧で優しげな言葉遣いと対応に笑ってしまった。慌ててうつ向いて、声を抑えて肩を震わせた。むつと西原の関係を知らない人から見れば、むつは昨夜の事に怯え泣き出している可哀想な生徒ととし見えなかっただろう。




