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7話
天使が居るのだとむつは思った。また、あの無邪気な笑みで烏をむさぼっているのか、羽音と鳴き声を間から、ぐじゅっと肉が潰れるような音がした。
烏の天敵のような天使が居るなら有り難いと思い、むつは手にしていた炎を投げつけた。羽根に炎が移り、暴れている烏を蹴り飛ばし、しゃがむと手探りに寝かされている人の手を探した。ばしばしと飛び込み台を叩くと、しなって揺れる。人が1人立てる程度の幅しかない場所で、むつは左右から烏に体当たりをくらいながらも、ゆっくり前に出る。
ようやく何かを掴めた。むつはそれを引っ張ると、見慣れた制服に身を包んだ少女だった。行方不明者のうちのどちらかだろう。
鼻の下に手をかざすと、かすかにだが呼吸をしているのが分かる。だが、かなり冷たく弱っているようだ。この少女を連れて階段を下りるか悩んだ。だが、そんな余裕はないくらいに烏からの体当たりがきつくなってきた。
きゃあきゃあと天使の声が間近に聞こえた。むつが振り向くと、口や手を赤黒く染めた天使がにちゃっと口から羽根を吐き出し笑っていた。




