2話
むつは1回、家に帰りバイクを置いてよろず屋に戻ったが、すでに誰も居なかった。帰るの早くないかと思ったが、むつは時計を確認した。もう退社時間を過ぎているから、仕方ないかと思い一応、山上と颯介にはメールで戻ってきた事と帰る事を伝えた。
戸締まりをして、むつは西原との待ち合わせ場所にしている居酒屋の鶏一に向かった。少し久し振りの赤提灯のぶら下がった横を通り、暖簾をくぐって引き戸を開けた。
「お、たまちゃん。いらっしゃい。仕事お疲れ様、ダーリン待ってるよ奥で」
ひろっとした店長、戸井に言われむつは呆れたような顔をした。だが、面倒くさいのか否定はしなかった。
「生、あと手羽餃子…灰皿貰ってくよ」
「はいはい」
勝手知ったる様子でむつは、灰皿片手に奥の座敷に向かった。西原はすでにビールを呑みながら、つまらなさそうな顔をしていた。
「お待たせ。意外と早かったのね」
「30分くらい前に着いた。で、戸井さんに相手して貰ってた」
靴を脱いで座敷に上がったむつは、戸井が運んできたビールとおしぼりを受け取った。
「戸井さん、ごめん。生」
残っていたビールをくいっと呑むと、西原が言った。むつは、西原の注文したビールが届く前におしぼりで手をふくと、キュウリの漬け物をつまんだ。ぽりぽりと噛んでいると、戸井がビールを持ってきた。
むつはジョッキを持ち上げて、がちんっと西原と乾杯をすると冷えたビールを飲んだ。




