1話
図書館に居るのにマナーモードにし忘れていたむつは、慌てて切った。着信は西原からだった。急いで論文を元の棚に差し、落とした紙を司書にでも渡そうとポケットに入れた。だが、携帯が鳴った事を怒られている間に、紙の事も忘れてしまっていた。
外に出たむつは、自販機でパックジュースを買いベンチに座り、一服をしながら西原に電話をかけ直した。
「あ、もしもし?ごめん、出れなかったの」
『どっかに行ってるのか?仕事終わったから、迎えに行こうと思うけど…今、どこだ?』
「大学よ。小川先生と後輩しごいて遊んでたの。今から戻る所」
『何してんだよ…なら、戻ってくるのに3時間くらいかかる?』
「やー?バイクだしそんなにはかかんないよ。高速使っちゃうし…けど、余裕みて3時間後にして」
『分かった。どこで待ち合わせる?』
むつは、はーっと煙を吐き出しながら練習を終えて帰っていく学生を見ていた。
「そう、ねぇ…鶏一は?どーせ空いてるし、ゆっくり出来るし」
『酷い言い様だな。ま、分かった。じゃあ、また後でな…気を付けて運転しろよ
な』
「うん。じゃあまた後でね」
通話を終えると灰皿にタバコを放り込んで、パックジュースを飲みきるとむつは駐輪場に向かっていった。




