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6話
まだ部活をしている生徒が居るのか、ちらほらと声が聞こえてくる。むつは、制服以外で明るい時間帯に学園内を歩くのは初めてだった。少し新鮮な気分で、辺りを見回していた。そして、然り気無さを装って木々を眺めていた。烏は居ないのか、鳴き声も葉を揺らす音も聞こえてはこない。
「烏は居ないみたいだな」
西原も烏には警戒していたのか、むつの視線に気付いてそう呟いた。むつは、こくりと頷いた。教会の尖った屋根が見えて来た。屋根や柵にも今日は烏の姿は見えない。
教会の扉が近くなるとむつは西原の先に立ち、扉を開けた。西原に先に入るよう促した。そして、むつも中に入った。
「やけに優しいな」
「ねぇ。西原さんがお怪我されてるのを気にしているからでしょうね。むつさんはかなり気にされてるご様子ですね」
すでに来ていたノアが、頬杖をついた姿勢でむつと西原を見てくすくすと笑っていた。




