1話
バイクでのんびりと1時間ほど、走ったむつは、慣れた様子で速度を落とすとゆるく長く続く坂道を上っていった。そして、雑然としている駐輪場にバイクを停めた。ヘルメットを外して手で持つと、ぶらぶらと歩き出した。堂々と守衛の居る門を潜っていった。
門を潜ると噴水があり、心地良いかきーんという金属音が聞こえてきた。むつは懐かしい気分になって、少し微笑んだ。掛け声といい、雰囲気といい、全然変わっていない。むつは、卒業以来初めて訪れた母校をぐるっと見回した。
クラブ活動をしている生徒以外はあまり居ないようで、全体的には静かだった。むつは、あまり辺りを見る事はせずに真っ直ぐに体育館に向かった。開いているドアから中を見ると、奥ではバスケ部がシューズをきゅっきゅっ鳴らして走り回っている。そして、手前では剣道部が竹刀をぶつけ合い練習に励んでいた。
むつは誰かを探すように、きょろきょろしたが、すぐに目的の人を見付けた。むつが、じっと見ていると視線に気付いたのか小柄な人物が手を止めて、こちらを見ていた。
「…むーつ‼」
名前を呼ばれたむつは、ぶんぶんと手を振った。そして、靴を脱ぐと一礼して体育館に入っていった。




