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6話
よっこらしょっと、むつは上体を起こすと、芝生の上であぐらをかいて座った。こちらに烏がやってくる事はなさそうだった。烏は完全に、天使だけを標的と見定めている。
むつは安全なのを確認して、辺りをきょろきょろと見回した。人形を近くに置いておいたにも関わらず、天使と烏に目を奪われていて肝心の男がどこに行ったのか分からなくなっていた。だが、天使を連れてきたのだから、どこか近くで見ているはずだ。
「あ、居たわ」
立ち上がったむつは西原をほったらかしにして、先程まで西原が居た木まで戻っていく。
「今夜は隠れないんですか?」
「昨日の事でしょうか?あなたが隠れる気ないなら隠れませんよ」
「寝そべってたのは逢い引きですか?こんな所で、だなんて関心しませんよ。健全な教育に差し支えますから」
木にもたれるようにして立っていた男が、むつの方を見てにっこりと笑みを浮かべた。




