1話
「えぇ、そうですね。すみません…聞き方を変えます。悪魔はいると思いますか?」
「それは誰の心の中にも闇があるように、存在するかもしれませんね。現に、悪魔崇拝の儀式としてカルト教団なんかが悪魔を召喚する為として事件を起こす事も多々ありますからね。何を信じ、何にすがるか…次第でしょうね」
「そうですよね…失礼な事をお聞きして申し訳ありませんでした」
むつが頭を下げて、立ち上がると牧師はぼそっと独り言のように呟いた。
「悪魔が居るのだとしたら、それは復活の時を地上に出る事を待ち望んでいるでしょうな」
「人々に悪をもたらす物も、実態を持てないという事…でしょうか?」
「神とて触れられる存在ではありませんからね」
むつはもう1度、深々と頭を下げると教会から出た。十字架の飾られた尖った屋根を見て、ふうっと溜め息をついた。
「悪魔か…まぁ、神様は居るし、霊も妖怪も存在するわけだから…居るよね、きっと」
ぼんやりと今までに出会った妖怪や霊、そしてお世話になった海神の事をむつは思い出していた。
少しの間、ぼうっと十字架を眺めていたが、むつは再び溜め息をつくと、駐輪場に向かって歩き出した。




