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5話
返事がないとなると電話をかけたくなる。だが、学園内の警備をするという仕事に就いている、西原の邪魔にはなりたくない。連絡を待ちわびて、もどかしい気持ちになるなんて、いったいいつぶりだろうかとむつは考えてみた。だが、ここ最近にはない事で思い出せない。
西原と玲子と約束した通り、むつは抜け出すつもりはなかった。だが、西原が心配でならない。むつはTシャツを脱ぐと着替えた。そして、机の前の窓を大きく開けると下を見た。懐中電灯を持った2人組の男が、辺りを見回しながら通っていく。そのうちの1人がちらっと寮の方を見た。むつは、窓から入ってくる風に当たっているだけのように見せておいた。だが、実際そうだった。今、出ていった所であぁして厳重に警戒されていると見付かる可能性が高い。
冷たい風を受けて、むつは少しずつ冷静になっていった。もう1度、携帯を確認したが西原からの返事はない。仕方なく窓を閉めると、鞄から人の形に切ってある紙を取り出して、ふっと息を吹き掛けて机に置いた。




