5話
授業をぼんやりと過ごしたむつは、大きな欠伸を手で隠しながらようやく終わった授業の片付けをしていた。菜々から教科書を貰えたから、もう隣の席の生徒に頼る必要もない。椅子の上で軽く腰をひねって、ばきばきと鳴らした。お嬢様育ちしか居ない、クラスメイトたちはそんなむつを好奇の目で見ている。
むつは変だとは思っていないが、腰を鳴らすのも、朝食の時に一口あげようとしたりしたのも、マナーのない事なのだろう。だが、あまり気にもしていないむつは、鞄を持つとさっさと教室から出た。鞄に入っているものは何もない。教科書は全部、ロッカーと机の中だった。そんな薄っぺらく軽い鞄を持ち、むつは慣れた足取りで植物園にやってきた。
ぐるぐると螺旋階段を上がり、菜々の秘密基地になっている場所に足を入れると、すでに玲子がやってきていた。
「え、早くない?」
「先輩が歩いてるのが見えたので…先回りして来たんです」
「はー?なら声かけてよ。置いてかれる意味が分かんないんだけど」
「いや、でも…」
「そしたら、荷物も半分手伝えたんだし。あんさぁ妹っても友達みたいな感覚にしてよ?人目がある所では、妹らしくしてても良いけど…ね?分かった?」
「はい…変わったお姉様ですよね」
「変わってないから。ふつーの学校では、仲良い先輩見付けたら、後輩とか関係なく声はかけるもんだし。後輩が荷物大変そうなら手伝うのが先輩なんだからね」




