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5話
軽くだったから、痛くはないはずだが玲子は泣きそうなのを堪えるように、唇を噛んだまま顔を上げた。
「何の為のこれよ?」
むつは玲子の胸元のリボンについている、昨日渡したピアスを指をつついた。
「あたしに何かあった時に、あんたが自由に動けないんじゃ、頼みの綱がなくなるわよ。だから、安全第一に居なさい。分かった?」
「先輩ちょっとムカつきます」
「おぉ、反抗的だな」
目を細めて優しげに笑うむつを見て、玲子もほうっと息をつくと笑みを浮かべた。
「分かりました。だから、何かあったらすぐに何でも言ってくださいね。着替えのお手伝いもしますから」
「…うん、分かったよ、約束ね」
くすくすとむつは笑うと、さて着替えようかなとハンガーにかけてある制服を手に取り、ベッドに投げた。
「もぅ、何でそんな事するんです。シワになるじゃないですか…今夜は制服のアイロンかけますね、アイロン持ってますか?」
「いや、無いけど…そんな事しなくても」
むつはそう言ったが、玲子はクローゼットを開けて他のシャツも見て全部アイロンかけないといけませんね、などと言っていた。




