1話
翌日、むつは山上が出社するのを待ち昨日の菜々からの依頼の話をした。しばらくまた、単独で動くことになる事も話していた。
「宗教絡みか」
競馬新聞を読もうとしていた山上だったが、細めた目は何か面白い物をみるような目付きだった。無精髭に元々、細く鋭い目付の山上が目を細めると、何だか威圧的な物を感じるが、むつは全然平気そうだった。
「ま、いつも通り報告ちゃんとしてくれたら良いから。俺もサポート回ってやるし」
「へぇ…何かやる気あるんだ?珍しい」
「いや、いつも通り。湯野ちゃんと祐斗が仕事になったら、俺しか居ないだろ?」
頼りになるとは言い難いが、その通りだったので、むつは頷くしかなかった。そして、話を終えて席に戻ろうとしてむつは思い出したかのように山上を振り返った。
「あ、それからさ…何でモロンでチーズケーキ買ってきてくれたの?すっごく並んだでしょ?」
「おぉ、すげぇ並んだ。チーズケーキに1時間並ぶとか有り得ないな、旨かったか?」
「美味しかった、ありがと。あたしも何回か並んだけど…やっぱチーズケーキ買うのに1時間も並ぶのは有り得ないよね」
「有り得ないな。けど、そこまで人気ならって思って並んだもののさ、女ばっかりの列におっさんが1人で並ぶのは辛かった。感謝しろよ?」
「うん、感謝してる。今度はスイートのイチゴタルト買ってきてよ。あそこも、かなり並ぶのよね」
「いや…1人では行きたくないな」
山上はそう言うと、競馬新聞に視線を戻した。




