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5話
「さぁ…ん?何ですこれは?紙?」
口元についた紙切れを男は、そっとつまみあげた。だが、大して気にもならなかったのか、床に捨てた。
「あまり変な者を口に入れてはなりませんよ?さ、お外に出て思う存分食べてくださいね」
男の腕に抱かれた天使は、嬉しそうに声を上げている。男の方も子供を抱くように、しっかりと首元と尻のあたりに手を添えていた。そして、男はきゃっきゃっとはしゃぐ天使を抱いて出ていった。
足音が聞こえなくなり、ぱたんっとドアの閉まる音が聞こえた。それでも、むつも菜々もしばらくは何も言えなかった。
「ま…まだ靴はいちゃダメ?」
「ここ出るまでは」
男が出ていったと分かってはいたが、菜々もむつはお互いにしか聞こえないくらい小声だった。




