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5話
縁を指で掴み、体重を支えながらむつは顔を動かして飛び移れる場所を探した。寮の周りには大きな桜の木が等間隔に植えられているのが、幸いだった。葉もほとんど落としている太い枝に、手を伸ばして掴むと、足を離した。
むつの体重でゆさっと枝がしなった。枝同士が擦れる音がしたが、この程度なら大丈夫だろう。日付も変わった時間に起きている生徒が居ても、流石に窓は開けていないだろう。むつは枝に足をかけると、そろそろと下りていった。1番低い位置の枝と地面との距離が、どのくらいあるのかは分からない。ペンライトで照らし、そんなにないだろうと判断すると、ペンライトの明かりを消した。そして、しゃがんで枝を両手でつかむと足を落として、少しだけぶらさがってから手を離した。
意外と距離があったのか着地の仕方が悪かったのか、足がじんじんと痺れた。しかめっ面をして、堪えてマシになると菜々と落ち合う事になっている教会の方に向かって歩き出した。
風もあまりなく、気配を消してくれる物は暗闇だけだった。むつは、足音を立てないよう気を付けながら歩きつつ、辺りを注意深く見渡した。




