5話
しばらくは、菜々の持ち込んだ菓子をつまみながら紅茶を飲み、とりとめのない話をしていたが、日付が変わろうとする頃、むつが大きな欠伸を連発し始めた。
すると、玲子が何度も頭を下げて謝りながら、土鍋を持った菜々と部屋から出ていった。菜々は、玲子を部屋まで送り食堂に行くと土鍋を置いてまたすぐに、むつの部屋に引き返した。人に見られていない事を確認し、なるべく音をたてないようにして部屋に入るとむつはすでに動きやすいように、デニムとパーカーというラフな服に着替えていた。
「大丈夫?」
「たぶん、ちゃんと部屋に入るのは見たよ」
菜々が言うと、むつは頷いた。生真面目そうな玲子の事だから、約束を破る事はないと思っていても、やはり少しの不安はあった。人とは違う力のある、むつに出会えて、それを生かしているのだと分かると、それが羨ましくも楽しそうにも思っている節があるんじゃないかと。むつは、そんな風に感じていた。
「菜々も本当に来るの?」
「行くわよ。迷子になられたら困るし…むつ1人で行かせたってなったら、先輩とまた揉めるし」
「…よくもまぁそんなに揉めるネタがある事」




