1話
「現状ねぇ…良くも悪くも、何もない。仕事で顔会わす事は多々あるけどさ」
むつのちょっぴり寂しそうな笑みを見て、菜々は表情を曇らせた。
「仕方ない。協力して貰おっか」
「…気まずくないの?」
「気まずくはないよ。たまに呑みに行くし、良いお友達に戻っただけだよ…ちょっと待ってて」
名刺をテーブルに戻して、むつは席を立った。菜々は、名刺をじっと見つめてそして、ぐじゃっと丸めた。名刺には、西原と名前が書かれていた。
「あ、もしもし、今大丈夫?あのさ、菜々が来てるんだけど…え?あ、そうそう大学の時の……うん、察してくれてありがと。で、死因は?他殺?ふーん?何それ……はぁ、分かった。そんだけ、とりあえず…ん、は?あーそのうちに…はいはい。じゃあ、ありがとー」
電話をしながら戻ってきたむつは、面倒くさそうに喋りながらメモを取った。そして、相手がまだ何かを言っていたにも関わらず一方的に通話を終了させた。
「…先輩?」
「そう。分かってるのは失血死って事と、注射痕みたいなのがあったから、たぶんそれで血を抜いたんじゃないかって事くらいだって。他殺とも自殺とも取れるみたいね」
「後は何か言ってた?」
「呑みに誘われた。あとは菜々が来てるって言ったら、むつに話すと思ってた、だってさ」
菜々は、ちょっとやそっとじゃ崩れないようなメークを施した顔を盛大に歪めた。眉間にくっきりとシワを寄せると、その跡が少しだけ残っていた。




