124/718
3話
むつが玲子を再び、引き寄せようとしたが遅かった。玲子はするっとむつの手から逃れると、何が起きたのかを自身の目で見ていた。むつの手のひらから、オレンジ色の炎が吹き出て、それが蛇のようにうねりながら群がってきていた烏を蹴散らしていた。
意思を持っているかのような炎は、西原と菜々をぐるっと取り囲んだ。そして、火柱のようにごぉっと一層大きく燃え上がった。炎の勢いに圧倒されたのか、烏がぎゃあぎゃあと鳴きながら散っていく。
逃げていく烏をむつは見ていたが、ちりじりに飛んでいくものだから、追う事も烏が襲ってきた元になるような物を見つけ出すのも、無理だなと判断した。
「うわわっ‼っちい‼むつっ‼」
「あ…」
炎の中から西原の声が聞こえ、むつはまだ炎が勢いを失わずに燃えている事に気付いた。むつがそちらに駆け寄ると、炎は静かに小さくなっていった。
「ごめん、大丈夫?」
炎の中から出てきた西原のシャツには所々、焦げたように黒くなったり穴が空いたりしていた。




