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3話
「どっちか分かるか?」
西原が聞くと、むつは西原の手をぎゅっと握った。少し緊張をしているのか、むつの手がしっとりとしていた。だが、西原はそんな事は気にせずに握り返した。
「あたしから見て、左…木の影」
むつが少し腰を浮かせると西原も地面に指をついて、身体を起こすようにした。西原が動こうとすると、むつが袖を引っ張って引き止めた。
「専門外でしょ?」
「けど、お前が行っても危ないだろ」
「大丈夫」
ぱっと手を離すとむつは走った。がさがさと草を掻き分けて、目的とした木まで行ったが何も居なかった。あとからやってきた西原も辺りを見回したが、何も見付けられなかったようだ。
「待って…居る」
緊張したようなむつの声に西原は動きを止めた。注意深く辺りを伺うが、西原には何も分からない。
「あっ‼」
むつは西原を突き飛ばした。
「むつ‼」
地面に倒れた西原は、すぐに起き上がったが真っ黒い物に視界を覆われた。ばさばさと音が聞こえ、顔や身体を叩かれている感じがした。




