1話
「宮前せんぱーいっ」
体育館の外には、同じ制服を身にまとった少女たちが、きゃあきゃあと囁き合いながら、面をつけて竹刀を振るっている人物の応援をしている。
「あの人?3年の先輩で転入生って」
「みたい。こんな時期に珍しいよね」
「ね、それに外部生が転入っていうのも珍しいわよね」
「姉妹校から、らしいわよ」
「へぇ…そうなんだ。それにしても強いわ」
すぱーんっと竹刀が面を叩く音が響くと少女たちは、またきゃあきゃあと歓声を上げていた。先程、相手から1本を取った宮前先輩と呼ばれた人物は、野次馬たちに今頃気付いたのか、少し躊躇うような感じを見せた。
「宮前せんぱーいっ‼」
少女たちに名前を呼ばれた宮前先輩は、籠手をつけたままの手をひらひらと振った。それは、返事をする為に振ったというよりは、五月蝿いからあっちいけ、というような仕草だった。だが、少女たちは、それに気付いていない。
「どんな顔なの?」
「きりっとした感じらしいわよ。あたしもまだ見た事ないのぉ」
「早く面外さないかな」
「ってか、背も高いわね」
宮前先輩は、面の中で舌打ちをした。そして、その五月蝿さを打ち払うかのように、再び練習に集中し始めた。