第九話 金の終わりと始まり
沈黙の洞窟地下二階、迷宮層。そこに一匹の魔物がいた。それの全身は赤く、血に濡れたような肌をしている。体格は大きく、まるで猛獣のようだ。両手には巨大な片刃の斧を持っている。顔は豚、というより牙のない猪に近い。この魔物の名はレッドオーク。高額の賞金が掛けられている、凶悪な魔物の一つである。
レッドオーク。彼は沈黙の洞窟の内部に、王国をつくり上げようとしていた。彼等オーク達の楽園を………
スライムがライラの都市、東門を襲撃してから数日後。
ミナ、リリスの二人と別れたベルフ君は、一人で過ごしていた。そしてその結果。
「金がなくなった」
『なくなりましたね』
宿代が底をついたのである。
ライラでは冒険者用の安宿が幾つもあった。その中には集団で一つの部屋で眠るタコ部屋から個人部屋が用意された手頃な価格の宿まである。そんな中でベルフ君が泊まっている宿はというと。
街の一等地にドーンと構えている貴族の館のような高級ホテル。一晩数千ゴールドから必要になる、このホテルは安宿と比べて数倍から数十倍の宿泊費がかかる。無論、それに付随して質の良さは織り込み済みではあるが、普通に考えて新人冒険者が利用していい場所ではない。
そんな場所にベルフは宿泊していた。当たり前ではあるが、新人の冒険者がそんな事をやっていたら、手持ちの金が保つわけない。
どこのスイートルームだよと思えるほど綺麗で広い客室。その自室でホテル側が用意した豪勢な朝食を済ませると、ベルフは相棒のナノマシン、サプライズ一号と共に今後の予定を立てる。
『それで、どうするんですかベルフ様? 魔物退治に精を出す方法もありますが、ちょっと金策としては効率が悪いですね』
サプライズの言うことも最もだ。冒険者になりたてのベルフがいくら魔物を退治しても、稼いだ金銭は、その日の宿と食事代に消えていくのがオチである。
「金がなくなったから、リリスかミナの家にでも転がり込もうと思っている」
ベルフは数日前に助けた女冒険者二人の事を思いだす。二人共この町の住人で、自宅に住みながら冒険者をしているらしい。いざとなればそこに押しかける算段だ。
『あの雌豚二人ですか。まあ命の恩人であるベルフ様が困っているのですから、あいつらがべルフ様に恩返しをするのも当然ですね、いい考えです』
と、そこで部屋のドアがノックされる。
ホテルの従業員が朝食の片付けに来た合図だ。ベルフはドアを開けて従業員を招き入れるとポケットの中からチップを渡す。王者として何時いかなる時でも下々の人間に施しを忘れないのだ。
チップを貰った従業員は一礼すると、テキパキと朝食を片付けてそのまま部屋から出て行く。中々に年期の入っていたいい仕事ぶりである。
「さて、いまので完全に手持ちの金がなくなった。ギルドへ行くぞサプライズ。リリスとミナを見つけるのだ」
『わかりましたベルフ様』
ベルフとサプライズはそのままホテルを出て行く。まだ見ぬリリスたちの家に寄生するため。