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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第三章 ベルフ護衛をする

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第七十八話 親子対面 前編

 半壊した王城にレッドドラゴンが鎮座している。そのレッドドラゴンは、この城は自分を召喚したエメラ様のものやぞと分からせるべく、わざわざ城のてっぺんに乗って咆哮を上げていた。

 

 無論、突然の出来事に街の人間たちは大パニック状態であり、彼らの多くが逃げ惑うか呆然としている。そんな中で、兵士達が街の人間達に落ち着くようにと声を上げていた。しかし――


「大丈夫、何も問題ありませんよー」

「ちょっとしたレクリエーションで文化祭みたいなもんっすから、あのドラゴンはこの城の真の主であるエメラ様の使い魔ってだけですから」


 兵士達が笑顔で民衆にそう語りかけていた。しかしそれは、街の人間達から仏頂面だとか愛想がまったくないと陰口を言われていた、この国の兵士の姿ではない。実にフレンドリーな笑顔を浮かべている。


 その姿に、ドラゴンよりも兵士達の方に恐怖を感じていた町人の青年が話しかける。

「えーっと、あんたたち頭は大丈夫か?」


 青年が直で兵士達にそう問うと、兵士達が大きく首を縦に動かした。

「ちょっとお城の王座で世代交代しているだけなんで、僕達もそれに合わせて心を入れ替え中なんすよ」

「人の見る景色は気の持ちようで代わるんだよね、今の僕達の瞳孔には、この世界の裏側の景色まで見えてるから気にしないでくれ」


 その返事を受けて町人たちが兵士達から距離を置いた。遠くに見えるドラゴンのことはもう視界には入っていない。

 と、その時、兵士達が自分達に話しかけてきた青年の肩を二人がかりでがっしりと掴んだ。


「ところで君、城の兵士になってみない?」

「僕もそう思ってたんだよね、この青年にはなにかがあるって。新しい時代を切り開くための若いエネルギーってやつ? 魂の力を全て削り落として自己を磨こうとする苦行に挑む僧侶のような雰囲気? 彼からはそんな輝きを感じるよね」

「いや、あの、ちょっちょっと待って」


 いきなりの展開に青年が戸惑う。だが、それはもうおそすぎた。

 そのまま高らかに笑いながら城の中へと青年を連れ込んでいく兵士達。それを見て一人、また一人とその場から人々が逃げていった。彼らは気づいたのだ、この国は、もう変わってしまったのだと。



 ガシャーーン。非常な鉄の音と共に、サフィ王妃が地下牢の中に放り込まれた。

 元々貴人用に作られているこの場所は、整った内装の部屋をしている。だが、外部へと続く場所は鉄格子になっており、その鉄格子の外側でエメラが酷薄な笑みを浮かべながらサフィ見下ろしている。


「エメラ、何をしているかわかっているのですか!!」

 サフィからの返答にエメラが口の端を吊り上げた。

「私の敵が無様に牢に入っていると言うのはわかるわねえ。どんな気分か教えてくださりませんか、実の娘に地獄まで招待される気分というのは」


 鉄格子越しの外から見下ろすエメラと、それを見上げるサフィ。勝敗は決していた。


「エメラ、あなたがどれだけ強くても貴女の兄であるアレックスと近衛騎士達がこのまま黙っているとお思いですか。だから、こんな馬鹿な真似は早く辞めなさい」


 そのサフィの言葉にエメラがふんっと鼻を鳴らした。

 そう、この国にも正式な王位継承者がいる。エメラの兄であり、この国の第一王子アレックス。文武両道を絵に書いたような好青年で、領民だけではなく、家臣達からも多大な支持を得ている誰もが認めるこの国の正式な後継者。ではあるのだが――


「兄上? ああ、あの脳内お花畑のゴミですか。あいつならこの通り、もう抵抗すらできませんよ」


 そう言ってエメラがズタボロになっている一人の男をサフィに見せつける。

 高価そうな鎧に身を包み、金髪の美丈夫と思われる男が全身ぼろぼろになっていた。彼こそ、エメラの兄であり、この国の王位第一継承者であるアレックスである。

 エメラは、そのアレックスの髪をひっつかんでサフィに見せつけていた。


「降伏しろだの、クレイグ王への嫁入りは仕方ないだの、王族の義務だのと言ってきましたから、この通り力づくでこちらの正義を通させてもらいました。安心してください、このゴミ含めて近衛騎士達には役目がありますから生かしてはおきますよ……私の手足となって一生働いてもらう、という役目がね」


 と、その言葉と同時にエメラの周りにアレックス付きの近衛騎士達が集まり始めた。全員、何らかの手傷を負っており、もはや立っているのもやっとという有様である。


「王妃様、すみません……」

 リーダー格の近衛騎士が無念そうに頭を下げる。


「近衛騎士たちが、なんで……」

 動揺しているサフィに向けてエメラが話しかける。

「それにしても本当に役に立ちますよね母様は。本当なら意趣返しとして、貴女をどこぞの変態と番にでもさせようとしていたのですが、彼らがなんでもするから止めてくれとしきりに頼み込むので止めてあげたんですよ」


 エメラの言葉にサフィが初めて恐怖の色を顔に見せた。

 そして、エメラが一つの紙を取り出す。それは、エメラの父親の刻印が記されていた手紙だった。


「ところでお母様、こんなものを見つけたのですが、何でもお父様がクレイグ王を連れてこの城にやってくるらしいですね。なるほど、今お父様は婚約の成立報告を兼ねてシスト王国に向かっていると、で、クレイグ王が兼ねてからどうしても私に会いたいと言っていたので連れてくる予定だと、へえ、そうですか……」


 嫌悪感と怒りで震えるエメラ。そして、そのエメラの隙を突いて一人の近衛騎士が動こうとしていた。背後にいるその青年は、エメラからは完全な死角になっている。当然、エメラ側も手紙を読んでいるとあって、その殺気には気付いてない。


 忠義の騎士となった青年が、エメラ目掛けて剣を抜き放ち切りつけた。しかし、その剣が突如現れた石に阻まれる。精霊であるノームだ。

 奇襲が失敗したとあって青年が距離を置こうとするが、それよりも早く、現れたサラマンダーが青年を火だるまにした。


 身体が焼け焦がれて絶叫を上げながら気絶した青年をエメラが踏んづける。

「奇襲なんて効くわけ無いでしょ。例え私が寝ていたとしてもこの子達が自動で守ってくれるんだから。でも、私に歯向かった気概だけは褒めてあげるわ、今回だけは許してあげる」


 そう言って、ゲシっとエメラが蹴り上げた。青年はまだ生きてはいたが、どう見ても戦闘不能である。


「エメラ、貴女、貴女は……」


 変わり果てた自分の娘にサフィの方は困惑していた。彼女の知っているエメラとは、心の優しく、争いごとが嫌いで、常に周りのことを考えているとてもいい娘だった。少なくとも、こんな人間兵器のような存在ではなかったはずだ。


「お母様、確かあなた方は私に恨まれる覚悟があるらしいですね。安心してください、クレイグ王もろとも糞親父を闇に葬ってきますから」


 エメラからの宣言に周囲が驚いた。

 特にサフィは動揺が激しいのか、顔が真っ青になっている。


「そ、そんなことになればシスト王国と我が国で戦争が始まりますよ! それがどれだけの人間が死ぬ事になるのかわかっているのですか!」


 サフィからの言葉にエメラが笑顔で返す。

「その点についてはご安心ください。ちゃんとクレイグ王がシスト王国領にいる内にクソ親父共々潰しておきますから。むしろ、クソ親父が死ねばシスト王国の不備にして、慰謝料の一つでも貰えるかもしれませんね。死んでまで私と国の役に立つなんてお父様は本当に王族の鑑です」


 エメラの、親を親とも思ってない提案に、サフィがやっと気づいた。エメラはもう変わってしまったのだと。そして思った、なぜなんだと。自身の知る限りエメラはこんな短期間でここまでのド外道に変わる娘ではなかった、一体エメラに何があったと言うんだ。


 サフィどころか、周囲にいる近衛騎士達の誰もがそう思っていると、その場に一人の男がやってきた。


「その話は本当かエメラ?」


 それは一人の青年だった。ぼっさぼさの黒髪に気の抜けたような表情、身に付けてる装備は、やっすそうな鉄の鎧と鞘に入った白い剣。そう彼こそ、この作品の主人公であるベルフ・ロングランである。


 ベルフはその場に現れると厳しい目つきでエメラに相対した。

「自分の父親諸共、シスト王国内にいる内にクレイグ王を始末すると言うのは本当か?」


 ベルフからの厳しい目つきに、エメラが悠然と答える。

「ええ、そうするつもりだけど、何か問題でもあるの?」

「あるに決まってるだろ!!」


 ベルフには珍しい態度であった。彼が声を荒げてエメラを詰問している。

 突如現れたベルフにサフィ達が希望の表情を浮かべた。


「その通りですエメラ、自身の父親を手に掛けるだけでなく、他国の王にも手を出そうとする何て、そんな事は許される訳ありません。そこの貴方、名もしれませんが、エメラをどうか止めてください」

「よし、任せろ」


 サフィからの応援を受けて、ベルフが意気揚々とエメラと相対した。

「エメラ、お前は全く何を考えているんだ。クレイグ王だぞ、あの殺人手紙を書いた王様だぞ、実際に顔を合わせて、その人となりを見ない、なんて手が許されると思っているのか!」

 ベルフの言葉にサフィも頷いた。

「その通りですエメラ、実際に会わないなんて許されませ――うん?」


 こいつ今なんて言った? サフィ含めて周りの近衛騎士達もベルフに疑問の視線を投げかける。


 エメラがベルフの言葉に少し考える。

「えーっとベルフ、私がクレイグ王を抹殺しようとしているのはわかってるわよね?」

「当然だ」

「じゃあ、この国に呼んでから事を起こせば、両国で戦争になるのもわかってるわよね?」

「当たり前だろ? 自国の王が他国の王族の手でぶっ殺されましたとか、これ以上ないってくらいの宣戦布告じゃないか」


 やれやれこいつ何言ってんだ、と言う態度でベルフが答える。

 その態度に今まで黙っていたサプライズが口を挟んできた。


『ベルフ様、私にもわからないのですが、なぜそこまでクレイグ王とかいう変態クソロリコン爺に会いたいのですか? そいつに会うことが、両国に生息している多数の人類の命が失われる程の意味があるかと言われると、なかなか難しい所があると思うのですが』


 サプライズの疑問は概要を掴んでいた。

 ロリコン爺と会って話してみたい、ただそれだけのために戦争が起きてもいいよ、とベルフは言っているのだ。常人の価値観では理解が出来ないところであった。


「考えてみろ、大国の王でありながら周囲にロリコンだと公言して、自身の子供や孫すら無視して若い女にのめり込み続ける。そんな人間、他にどこにいる?」

『そっすねー、少なくとも私の知る限りでは一人もいないっすね、人類史紐解けば一人か二人いるかもしれませんが』

「そうだ、そんな奇跡とも言える人間の顔を見ない内に殺してもいいと思うか? 良くないだろ!! ここで会えなければ二度とそんな愉快な人間には出会えないんだぞ!!」


 ベルフの魂からの慟哭であった。ただロリコンであると言うのなら、いくらでも世の中にいる。しかし、立場も、権力も、家族もありながらただひたすらに幼い女の子を求め続ける。そんなゴミクズ他にどこにいる? いるわけがない!!


 サプライズが優しい声色で答える。

『全く、ベルフ様は仕方のない方ですね。いいでしょう、私も全力でサポートしてみせます。戦争だろうが、冒険者だろうが、近衛騎士だろうが、ありとあらゆる危機からベルフ様を逃してみせますから』

「さすがサプライズ、お前だけが頼りだからな」


 ベルフの主張に周りが納得できていない中で、エメラがいち早く立ち直った。

「つまり、ベルフは私のストーカーと会ってみたいってこと?」

「まあそういうことになるな」

『まあそういうことでしょうな』


 ベルフ達の返事を聞いて、エメラが考えをまとめる。

「そうね、考えてみれば他国の領土で、しかも護衛が多数いる中で逃さず暗殺すると言うのは難しいかもしれないわね。ここまで呼んだほうが確実なのは事実か」


 ベルフの意見を聞いたエメラが考え直してくれた。先程までは両国の関係とやらを考慮していた彼女であったが、現在は全くそんなこと考えてない。

 ベルフのおかげで、確実に状況は変化したのだ。


「さて、エメラの考えもまとまったことだし戻るか。城取りそのものは楽勝すぎて簡単だったから暇だったんだよなー、クレイグ王との会見が楽しみだぜ」

『いやー手応えなかったですからねー、楽しみの一つや二つ新しく作るのは本当に大変ですよ』


 さーていい仕事したぞーと帰ろうとするベルフの背中を見つめていたサフィは直感で理解した、エメラがこうなったのはこいつのせいだと。


 親というものは自身の子供に対して常に目を掛けるものだ。特に、その子供の友人関係や人間関係となれば、キチママ並みにヒステリックになるのは当然の事である。

 で、その上でサフィ側がベルフを見た感想はと言うと……


「この男をすぐにぶち殺せえ!!!」


 サフィから近衛騎士達に向けての魂の慟哭だった。


「私のことなんてどうでも良い、とにかくそいつだ、その男が全ての原因だッッッ」


 サフィの両手から血が滴り落ちてきた、それは悔しさと怒りの血である。

 そんなサフィを見たベルフが、いつものくっそ人を舐めたような目でサフィを見下ろした。


「エメラ、こいつ誰?」

「私の母様よ、現在死刑待ちだから、今世の別れと思って挨拶していいわ」


 ほーん、と思ったベルフがサフィに挨拶する。

「ちっす、エメラさんとはよろしくやってます、ベルフっていいまーす」

『ちっす、お嬢さんの下克上の仲間でーす、ナノマシンのサプライズといいまーす』


 ベルフからの挑発を受けて、血管が切れたサフィが泡を吹いて気絶した。

 気絶しているサフィに向けてベルフが首を振る。

「やれやれこっちから挨拶したのに無視するとはな、これがこの国の王妃か? 酷いもんだな」

『全くですね、ベルフ様がせっかく話しかけてきたと言うのに、まずは恭順の意を示して立場を示さなければいけないというのに』


 近衛騎士達から向けられる殺意の目線がベルフに刺さる。エメラの仲間ということで彼らがこちらに手を出せないことにベルフは完全に気づいていた。


 と、そこでサプライズがエメラに話しかける。

『そうそう、ちょっとこの城を修復していいですか? 私の建築魔法でボロクソになっている箇所を修理したいのですが』

 サプライズの言葉にエメラが考える

「よくわからないけど、それくらいなら許すわよ。ちょっとボロくなってきたと思っていたところだし、建て直しが出来るのならこちらから頼みたいくらいだけど」

『そうですか、では城の修理に向かうとします。ベルフ様早く行きましょう』


 サプライズの言葉にベルフが待ったをかけた

「いや、別に修復なんてしなくてもいいんじゃないか? 見る限りはそんなにボロくはないと思うが」

『ベルフ様、ここはベルフ様が住むことになる城なのです。壁にあるヒビの一つから、窓の枠についた小さな埃まで外観を汚す全ての物を私は許すことが出来ないのです。すいませんが、これは絶対に曲げる気はありません、ぜひとも建築魔法の許可をお願いします』


 頼れるパートナーから強く申し入れられたベルフ。まあ、相棒がここまでやる気になっているのなら良いか、と許可を出すことにした。


「まあ良い、じゃあ城中を綺麗にしてみるか。よく考えたらドラゴンのやつがこの城半壊させてたしな。お前の力で完璧に直してやれ」

『わっかりましたー』

 と言ってベルフが意気揚々と、地下牢のある階から階段を登って外へと出ていった。


 そして、残ったエメラが近衛騎士たちに話しかける。

「あなた達、ベルフは私の仲間だと強く覚えておきなさい。もしベルフに何かあったら覚悟しておくことね、下手人が誰かなんて関係なく、母様と兄上のどちらかが死ぬよりも酷い目に合うわよ」

「「「「「わかりました!!」」」」」


 エメラの言葉に、近衛騎士達が恭順の意を示した。先程まで、ベルフに殺意を込めた目線を向けていた彼らだが、もうその余韻はない。一糸乱れぬ様相でエメラに付き従っている。


「じゃあお母様、またすぐ会うことになるでしょうが一先ずさようなら。ここで兄上と一緒に処刑の日まで親子水入らずで生活していてください。すぐにお父様も来ると思いますから寂しくはないはずですよ」


 エメラはそう言うと、ベルフの後を追うように、その場から姿を消した。


とりあえず今日は前編だけ投稿

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