第七十話 同類
――――一週間後―――-
『いやー良い場所を手に入れましたね。人通りも、日当たりも、建物の規模も、全てが最高っすよ』
サプライズがご機嫌な声で話をしている。
「そうだな、ダニエルには感謝しないとな、こんな良い場所を用意してくれて」
ベルフがポンポンと近くにある柱を叩きながらそう言った。
「おーい、こっちも椅子からカウンターの設置まで全部終わってるぞ。パトズのおっさん達がきちんと終わらせてたみたいだ」
ボボスが椅子に坐りながらテーブルに肘を掛けていた。
新しい新居? にてわいわいと騒ぐベルフ達とは対照的にエメラの方は暗い顔と言うか引きつった顔でこの場所にいた。
エメラがベルフの服の裾を掴むと、先程の顔のままでベルフに質問する。
「ちょっとベルフ、ここがどこだかわかってる?」
「俺達の新しい隠れ家だろ。それがどうかしたのか」
『そっすよ、それがどうかしたんすか?』
「あれは何?」
そう言うとエメラがビシっと左手方向にある窓を人指し指で示した。その窓の向こう側にはまるでお城のような、と言うか城そのものが見える。
「あれか、あれはこの国の王城だな。俺よりもあそこで生まれ育ったはずのエメラのほうがよく知ってるんじゃないか?」
「そうだぞエメラ、少し帰らない間に自分が生まれ育った場所すら忘れちまったのか。全く、昼間っから酒でも飲んでるんじゃねえのか」
そう言うと、ボボスがテーブルの上にある酒瓶を手に持ってグビグビと飲み始めた。引っ越し祝いの一杯である。
「私が、お母様から隠れる必要があるって本当にわかってる? ねえ、別にこの街から離れろとまでは言わないけど、何で城の真正面近くに隠れ家置いてるのよ、本っ当に色々わかってんの?」
エメラが捲し立てるようにベルフへと詰問する。彼女も、この場所に案内される道中なんかおっかしーなーと疑問には思っていた。だが、まさか城近くに住むわけがないだろうと思っていた所に、王城の正門ほぼ真正面近くの位置取りをベルフ達がやっちゃってくれたから混乱の極みにあった。
エメラの額辺りをベルフが手で抑えると、諭すように言った。
「まあ待て、これはちゃんと考えた上のことだ。まさか城から家出して隠れ住んでるはずの王女様が、こんな近くにいるとは城の奴らだって思うわけ無いだろ? そういう心理的な裏を付いた作戦なんだよこれは」
努めて冷静に、しかしきっちりと理屈を並べてベルフは話した。
「でも、ここはいくらなんでも……」
尚も食ってかかろうとするエメラにベルフは説明を続ける。
「それにだ、例え近くに住んでいたとしても下手に目立たなければ城の奴らだってここに注目したりはしないさ。ただ近くに住む、それだけしていればトラブルなんて起きやしない」
そこでエメラも冷静になった。確かに言われてみれば、ただ近くに住んでいるだけならわざわざ騎士達もこんな所に来はしないだろう。後は、顔バレしている自分やボボスが注意して生活すれば意外と安全なのかもしれない。
そこまで考えたエメラがようやく落ち着きを取り戻した。
「そうね言われてみればその通りね。意外と良いのかもしれない」
エメラも納得したようでベルフがニッコリと笑う。
そして、そのタイミングでスーツ姿を着込んだパトズのおっさんが部下たちを引き連れてベルフたちのもとにやってきた。
「こっちの準備は終わったぞベルフさん。開店準備もばっちしだ」
「それは良かった、これでつつがなく始められるな」
ベルフとパトズのおっさんがそう言うとがっちり握手する。
そして、エメラがパトズのおっさんを見ると疑問に思った。
「えーっとベルフ、そちらの方はどなた?」
「お、貴女がエメラさんですか、ボボスやベルフさんから事情は聞いてますよ。私はパトズ、新生冒険者ギルドのギルドマスターです」
パトズが紳士を思える微笑みでそう言った。へー、冒険者ギルドのギルドマスターなのか、新生と言うからには何処かで新しく冒険者ギルドでもやるんだなーとエメラは推測する。
「そうですか、それはおめでとうございます。それで、ここに何か用があって来たんですか」
「ん? ですから新生冒険者ギルドのギルドマスターとして来たんです」
エメラは思った、話が微妙に噛み合ってなさそうでお互いがっちり噛み合ってる感じがする。いや、もう大体わかってた、わかってたがエメラは認めたくなかった。
「ねえ、もしかしてこれって……」
そこでエメラは気づいた。建物の玄関口であるガラス張りのドアに、パトズが連れてきた部下であろう上半身裸のマッチョ達が白い布を玄関先で垂らして、花で飾り付けしていた。その布が光に透けて逆向きになった文字が見える。
それを見たエメラが何度も見間違いだと思いながら目を擦るが、書かれている文字はどうやっても変わらない。そう、そこには、新生冒険者ギルド発足と書かれていた。
言うまでもなく、王城にいる兵士どころか道の通行人全員がこの建物に注目していた。ほんの僅かに開いた窓からでも外の騒ぎが聞こえてくるくらいだ。
エメラが幽鬼のような顔でベルフを睨みつける。
「おい、おい、さっき下手に目立たなければ大丈夫って、おい」
しかし、ベルフの方ははて、と言うぼけた顔をしていた。
「俺はそんなことを言ったかサプライズ?」
『いやー、どうでしょうね。ちょっと私は聞いた覚えがありませんね』
本当に何のことかさっぱりわからないなと言う顔をベルフはしていた。その態度にエメラの何かが切れそうになる。
殺るか……エメラが悲壮な覚悟でそう決意すると、そこに横からパトズのおっさんが口を出してきた。
「エメラさん、少し良いかね」
パトズのおっさんがエメラの肩に手を置いた。
「ベルフ君達を責めないでやってくれ、この国には冒険者ギルドが絶対に必要なんだよ」
目をキラキラさせたおっさんが自身にそう語りかけてくる姿に、エメラは不気味なものを感じた。つまり、性理的な嫌悪である。
肩に置かれているパトズの手を振り払うと、パトズから少し距離を離してエメラが言った。
「絶対に必要ですか?」
「そう絶対にだ。冒険者ギルドというのは、貧しい人間達に向けたセーフティネットの役割があるんだ。ギルドがあれば食いっぱぐれない、そういう部分がね」
「はあ……」
エメラは今ひとつ理解してない様子だった
パトズがエメラに背を向けるとコツッコツッと歩き出す。
「ギルドのない場所では、魔物たちを倒したとしてもその素材を商人たちに買い叩かれてしまう。酷い所では市場価格の十分の一とかになってしまう事だってある。それも力のない貧者たちほど反抗もできないんだよ。ギルドというのはね、そんな人間達が安心して素材の売り買いが出来る場所なんだ」
そこでエメラが思い出す。少し前に自身がベルフと一緒に街へ出た時に、確かにそんな場面を見ていた。子ども達があくどい商人たちに少額の値段で魔物の素材を売っていた場面をだ。
「そんな不幸なことがあっちゃいけない、そんな私の理念をベルフ君が共感してくれてね。そこから、このギルドの発足に繋がったというわけなんだ」
そうだったのか、と思いベルフの方をエメラが見ると、ベルフは真面目な顔でうんうんと頷いていた。
エメラがベルフの方を向いた直後、パトズがずずっと近づいてエメラの手を握ろうとする。それにいち早く気づいたエメラがバッと言う擬音がなるような動きで、そのパトズの手を避けた。
「君の事情は知っている、しかし、どうか、どうかこのギルドを許してくれないか、これは君の国にいる不幸で哀れな人間達を救うためでもあるんだ!」
「それは良いんですけど、ちょっとこっちに触ろうとしないでくださいませんか」
「ははは、すまんすまん」
パトズが豪快に笑うと、先ほどと同じようにエメラに背を向けた。しかし、今度はエメラもパトズから目を離さず警戒している。
「まあ、国民のためになるというのなら私も我慢しますけど、一応この国の王族ですし」
「そうか許してくれるのか、本当にありがとう!」
くーっとパトズが男泣きをする。袖で目を拭って涙をこぼれ落とさないようにしていた。そんなパトズに、ベルフが声をかける。
「さあパトズ、そろそろ新規開店の時間だぞ。新生冒険者ギルドの姿をエメラに見せつけてやろうじゃないか」
「そうだなベルフさん、私達の戦いはこれからだ!!」
そう意気投合したベルフとパトズががっちり肩を組んで入り口方面に向かって進んでいく。その姿をエメラが冷ややかな目で見ていた。
「ボボス、あいつらの話、すっごく嘘くさいんだけどあれ本当なの?」
「そう言うなって、あいつらの熱意は本物だぜ、まあ見ていろよ、すぐにわかるからよ」
ぐでんぐでんに酔っ払ってるボボスからそうアドバイスされると、エメラの心の中では不安が更に増して行く。だが、様子くらいなら見てもいいかと思い直すと椅子に座る、と、ちょうどその時にギルド発足の時間がやってきた。
どこかで宣伝していたのだろうか、ギルドの中に多数の人間が入ってくる。それも、どちらかと言えば小汚い格好をした若い人間達が多い。パトズの言った通り、それはこの都市にいる貧者たちだとエメラは理解した。
「まるっきり嘘ってわけでもないのね」
「だろ? あいつらの言うことも一理あるぜ、この国は今まで冒険者ギルドを否定しすぎてたんだよな」
ふーんと思いながら少し離れた場所で様子を見るエメラ。パトズが連れてきた強面のマッチョ共が、テキパキと慣れた動きでギルドにやってくる人間達を受付のカウンター越しに捌いている。間違いなくベテランの動きであった。
「ねえ、あのマッチョ達は何?」
「なんでもパトズのおっさんの昔の部下らしいぞ。ここまで引っ張ってきたってよ」
「へー」
ただのセクハラ親父じゃなかったのかーとぼんやりと見ているエメラ。
ここにいる層は確かにガラが悪いかもしれないが、みんな何処か顔に明るさがあった。それはエメラが城で見ているような騎士達の品のいい明るさではないが、明日へと向かって刹那に生きていく、そんな種類の明るさだった。
そして、エメラはその明るさが嫌いではないと気づく。
「まあ少しだけでも様子を見ますか」
エメラがぼやんりとこの場で起こっている喧騒を見守ろうとした、その時だ
「ふざけんじゃねえぞこの野郎!!」
とあるカウンターで騒ぎが起きていた。
強面の男達数人がギルドの受付相手に凄みを掛けている。
「てめえ、俺達を誰だと思っていやがる、舐めてんのか!!」
建物全体に響くような怒声だった。男達が周りの迷惑も考えずに騒ぎを起こしていた。
「おい兄ちゃんよ、もう一度言ってみろや。この素材は何ゴールドだって?」
「もう一度言ってやろう、百ゴールドにもならんな」
「んだとお! 一万ゴールドの間違いだろうが!!」
一万ゴールド。たかが魔物の素材に一万ゴールドを出せと男達は言っていた。
ギルドが騒然としている中で、エメラは男達とやり取りしているその受付の男に見覚えがあった、ベルフである。
エメラがボボスに小声で話しかけた。
「ねえ、ベルフはあんな所でなにやってんの?」
「まあ良いから見てろって、ここからがベルフ達が本当にやりたかったことだからよ」
ボボスにそう言われたエメラは、騒ぎの推移を見守ることにする。とりあえずはベルフのお手並みを見せてもらうことに決めた。
「一万ゴールドだと? お前はたかが魔物の素材に一万ゴールドの値を付けろと言うのか?」
「当然だろうが、なあお前たち」
男がそう言うと、彼の仲間たちが頷いた。
その男達に向けてベルフが首を横に振る。
「全く話しにならんな、サプライズ言ってやれ」
『わかりましたベルフ様。まず、この素材はドラゴンの角と彼等は言いましたが、実際はゴブリンの角を元にして作られた精巧な偽物です。ドラゴンの角は模様が縦に入っていますが、これは斜めに入っています。錬金術としての媒体としても三流品であり魔力の伝導率も本物とは比較にならないほどの粗悪品です』
そのサプライズの説明に男達が狼狽する
「て、てめえ何をデタラメを言ってやがる、証拠はあるのか証拠は」
「証拠か、それならギルドお抱えの錬金術師に見てもらおうか、彼を呼んできてくれ」
ベルフが手をたたくと、一人の老人がやってきた。片眼鏡をかけた学者風の老人で、ひどく知性的な風貌に見える。
その老人が問題になっている素材を見ると首を横に振る。
「なんですかなこの劣悪な素材は、こんな物をよくギルドに売ろうとしましたね。全くもって酷い、こんな酷い物を私は見たことがない」
続いて、老人が男達をじろりと睨んだ。
「こんっな酷い素材をドラゴンの角として偽って売ろうとするなんて……ベルフさん、これは詐欺として騎士団に引き渡すべきかと思います」
その言葉に周りがざわついた。男達も自分達に向けられた刺すような空気に狼狽がひどくなっていた。しかし、そこでエメラだけが疑問に思う。
「んーー、あれ? ドラゴンの角って斜めに模様が入っているのが正しかったような気がするんだけど。それに、あの錬金術師のおじいさんって私が作った薬を買い叩こうとして、私とベルフが締め上げたあの店主とそっくりな気が……」
はて、あのドラゴンの角ってもしかして本物なのでは、とエメラが疑問に思い始めたその時だ、どたんと誰かが尻餅をつく音がした。
今度は何なんだとそちらの方を向くと、尻もちつかせて床に座っているパトズが身体を震わせてカウンターにある瓶に入った液体を指差していた。
パトズが声を震わせながら言った。
「こ、ここ、ここをどこだと思っている!!」
そのパトズの言葉に、カウンターに瓶を置いた男女の二人組みが混乱していた。
「え、いや、ギルドのカウンターですよね、それが何か」
「それが何かだと、ここは風水における鬼門だ!! こんな所で素材を引き渡す奴があるか!!」
風水。方角によって吉兆を占う占術の一つで、地域によってはメジャーな術の一つである。少なくとも冒険者ギルドには生涯関係ない物の一つだ。
その二人組みの男のほうがパトズの言葉に狼狽える。
「風水? えっとその風水って一体」
パトズが信じられないと言った表情で言った。
「お前は風水も知らないのか、鬼門を介して取引をしてはいけないなんてのは冒険者の世界では常識だぞ!! すぐに素材を置く所からやり直せ!!」
パトズの勢いに押された二人組みが、カウンターの上にある瓶を別の場所におく。が、しかし、それを見たパトズが人外の表情を作り上げると静かに言った。
「そ、それはまさか、スーパー裏鬼門……」
そう呟いたパトズが中年のおっさんとは思えないほどの機敏な動きでカウンターの上にある瓶を手に取ると、近くにいるマッチョの部下に手渡した。手渡された部下のマッチョが、無駄の全くない機械の動きでその瓶をギルドの倉庫へと持っていく。
パトズが腕を組みながら怒りの表情を見せる。
「一体どうしてくれるんだ」
「どうしてくれるって、何が……」
「あんな不吉な素材をどうやったら売れると言うんだ。よりによってスーパー裏鬼門とは、お前達はこのギルドを潰す気か」
その二人組みの冒険者が、このキチガイ豚は何言ってんだという目でパトズを見ている。
「あんたいいかげんにしろよ、そんなことより素材を受け取ったんならちゃんとこっちに金払えよ!!」
「金だと!?」
そこでパトズが受付のカウンターを大きく叩く。
「自分達が何をしたかわかっているのか! むしろ賠償金を支払うのはそちらの方だ、それをタダですまそうとしている私の優しさが本当にわからんと言うのか!!」
「て、、、てめええええ!!」
パトズの言い分についにブチ切れた男の冒険者が、剣に手をかけてパトズに斬りかかろうとする。が、その冒険者をパトズの部下達が取り囲んで羽交い締めにした。
「離せ、クソッ離しやがれ、てめえだけはゆるさねえ」
パトズがゴミクズを見るような目で冒険者を見ていた。
「全く、立場というものを弁えたらどうだ。私は、このギルドのギルドマスター様だぞ、君達とは生きているステージが違うというのに……おや?」
パトズがそこであることに気がついた。女の方の冒険者が意外と自分好みだということにだ。好色エロジジイの仮面を前面に押し出して、パトズが女性の方に話しかける。
「君、この男とは恋人かい?」
「え、その、あの」
「どうだ、君の態度次第ではそこの男を許してやってもいいが」
「てめえ、サラに手を出すんじゃねえ!!」
しかし、尚もパトズのセクハラは続く。
「サラと言うのか、サラちゃんが少し我慢してくれれば今回のことは不問にしても良いと思うんだ、どうだ悪い話ではないだろう?」
そう言うとパトズがサラに近づいてサラの肩を抱いた。
「ちょっと、やめてください」
サラの方は心底嫌がっていた。
その騒ぎを見ていたエメラがボボスに確認する。
「ねえ、あれがあいつらのやりたいことなの? ねえ?」
しかし、ボボスの方は感動で震えていて、エメラの相手をしている暇がなかった。
「さ、さすがだ。ドラゴンの角を百ゴールドまで値切るベルフに、クソみたいな言い掛かりで素材を無料で巻き上げるパトズ。なんて奴らだ、こいつら二人はどこまで人類の限界に挑めば気が済むんだ」
現在、ボボスはちょっとばかし摂取しているお酒の量がアル中の限界を超えていた。具体的に言うと、内臓の幾つかがアルコールの漬物になっていたとしてもおかしくないほどの量をだ。
そして、周りの人間達は既に、この場所が現代社会の生み出した闇の建築物だと理解している。一人、また一人と建物の中にいる人間が外に出ようと後ずさりするが、パトズの部下のマッチョ達が何時の間にか建物の入口を仁王立ちして封鎖していた。
前面のマッチョ、後門のベルフと言った具合に挟まれた冒険者志望の彼等に、ベルフが追撃の言葉を発する。
「そうそう、このギルドの出資者は主に裏町の商店街の皆様方でな、今後彼等は、このギルドを介して魔物の素材の商売をするそうだ……つまり、君達が狩ってきた魔物の素材は、このギルドを通してしか取引できなくなったと考えて欲しい」
そのベルフの言葉に全員に衝撃が走る。ついでに、エメラもその言葉で完全に理解した。
「ボボス、もしかしてあいつら、表の騎士団は無理だから裏の方からこの国を支配しようって魂胆なんじゃあ」
「おう、その通りだぜ。まともな冒険者ギルドがあったら難しいが、ライバルがまったくない状況だから支配も簡単って寸法よ。だから言っただろ、この国は冒険者ギルドを嫌いすぎたってな」
なるほどねー、と納得するとエメラが立ち上がる。様子見はもう終わりという話だ。
エメラは自身が持てる召喚術を全て駆使して、シルフを筆頭とした戦闘用の精霊を周囲に揃え始める。
そんなエメラの様子に気が付かないパトズとベルフは、目をキラキラさせながら語り合っていた。
「ベルフさん私はね、こういうギルドを作りたかったんだ、分かるかい」
「分かる、よく分かるぞパトズ」
パトズとベルフ、二人は出会ってから短い期間ながらも真の友になっていた。
「ギルド側の言うことに冒険者達は絶対服従、理不尽を身に纏いあらゆる欲望を満たす。これが、私の求めていた、真にあるべき冒険者ギルドだ、真に美しい、ギルドなんだ」
パトズが子供のように無邪気に話していた
『ご老人、苦労なさってきたのですね、その業を携えながら常人として振る舞うのはさぞかし苦しかったでしょうに』
「そうでもないさサプライズさん、ただね気づいた時には気苦労で髪もこんなに白くなっていたよ、ハハハ」
パトズの悲哀の篭った声にベルフは目が涙で潤うのを禁じ得なかった。
「もう良いんだパトズ、我慢することはない、もう我慢することはないんだ」
『そうです、もう良いんですよ』
同類相憐れむ。ベルフとサプライズは、パトズの歩んできた道の厳しさに自身の心が引き裂かれるような悲しみを感じていた。
「本当に良いのか、もう、本当に、ほんっとうに好きにヤっちゃっていいのかい」
「ああ、もう良いんだ」
『良いんですよ、ベルフ様以外の全ての存在にその思いの丈をぶつけてみなさい』
クッと自身の涙を拭うとパトズが顔を挙げて高らかに言おうとする。
「良し、じゃあまず、まず、することはだ――」
「王女として、この国にいるゴミ二匹を退治することかしらね」
エメラの風と雷の召喚魔法がベルフとパトズを包み込んだ。




