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第七話 スライムトレイン

 夜の森をベルフ、リリス、ミナの三人が歩いている。

 女剣士のリリスが足に怪我をしているとあって、そのペースは若干遅かったが着々と街に向かって進んでいた。

 さて、そんな彼等がどんな会話をしながら歩いているのかと言うと……



『なるほど、つまりちょっとダンジョンへ稼ぎに来たつもりが引き際を誤って、命の危機を晒していたわけですか』

 リリスとミナの事情を聞いたサプライズが、毒舌に身を任せて二人を責め立てている。


 リリスは、サプライズに文句を言い返す。

「うるさいわね。なによこいつ口悪すぎでしょ」

 ミナがそんなリリスを宥める。

「でもほらリリス、サプライズちゃんのおかげでこうして街まで帰れるわけだし……」


 現在、ベルフ達はサプライズの探知機能を使いながら夜の森の中を歩いていた。

 探知機能を使って魔物と出会いそうになれば避ける、もしくは身を隠す。街までの方向については、レーダーに写っている多数の青点を目指せばいいだけなので、特に迷いもしない。


 けが人を引き連れながらも、ここまで快調に進めているのは、囁きの森の道が起伏に富んでいないので歩きやすかったのも大きい。しかし、この状況でのサプライズの力がチート級に凄かったからなのも言うまでもない。


『そもそも夜の森で一晩中、魔物から身を隠すなんて出来ませんよ。この映像に映っている赤点の数を見ればわかるでしょう』


 サプライズは空中に映しだされている映像を二人に見せる。そこには魔物を示す赤いマークが多数映しだされていた。


『ですから、貴方達を助けた偉大なるベルフ様に感謝しなさい。ほら早く、早く、早く』


 サプライズの煽りを受けてミナは苦笑いを、リリスはぐぬぬと口籠る。別にリリスも感謝してないわけではないのだが、サプライズの言い方が完全に悪いだけである。


「おいリリス、ミナ」

 そこで、今まで黙っていたベルフが口を出して来た。神妙な顔をして何か悩んだ顔をしている。

「腹減った、なにか食べる物をくれ」

 ベルフ君からの食料の徴収である。

『確かに今日の朝からなにも食べてませんからお腹が空きましたね。ほらそこの雌豚、何か食料を出しなさい』


 リリスが何か悔しそうな顔をするが、立場としては今の彼女達はベルフ達より一段下である。悔しそうに、腰に吊るしてある小袋からビスケットのような物を複数だしてきた。冒険者用の携帯食料だ。


 ベルフはそれを受け取ると立ち止まってボリボリと食べる。十数時間ぶりのお食事タイムだ。


「まずいな。もっと味の改善に期待する」

『ケッ使えない女ですね』

「こいつら……」


 リリスが拳を握って何かに耐えるようにしている。しかし、まだまだベルフの攻勢は終わらない。


「乾燥したものを食べたから喉が渇いた。水をくれ」

『ほら、早く貴方達、王の為に水を用意しなさい』 


 今度は、女魔術師のミナが慌てて、水を入れてある水筒を出してくる。コップ? そんなものはないとばかりにラッパ飲みでベルフ君はゴクゴクと飲み干す。


「なかなか美味い水だった」

『ベルフ様に褒められたからと言って調子にのるなよ小娘が!!』


 中身が空になった水筒をベルフがミナに返す。ラッパ飲みだから関節キスだったとか、そんな甘酸っぱい情緒はない。とにかく喉が渇いていたのだ。


「街についたら殺す。絶対殺す」

「リリス、気持ちはわかるけど落ち着いて」

 怒りに震えているリリスをミナが押さえ込んでいた。街についた後のベルフくんの命運は、ミナがリリスをどれだけ抑えられるかに掛かっていると言って良い。


 しかし、まだベルフ君の追撃は終わらない。食べ物も食べた。水も飲んだ。だとしたら残るは一つである。


「おっぱいが揉みたい」

 食後のおっぱいである。

「ちょっと待ちなさいよ!!」


 リリスが待ったをかけた。横にいるミナが白いフードを頭から深く被って、顔を隠すように赤面している。

「食べ物と水はわかるけど、おっぱいはおかしいでしょ、おっぱいは!!」


 ベルフはリリスの言葉を真面目な顔で聞き流していた。

 そう、彼はその顔付きの真面目さに比例して、実はどうしようもない事を考えていると言う、クソみたいな癖があるのだ。


『ぬ、ぬぬぬ、おっぱいですと……ど、どうすれば……そうだ、良いことを思いつきました。私がそこの小娘共の身体を乗っ取って、ベルフ様に胸を触らせれば良いのです。おいそこの小娘ども、とっととその体を私に明け渡しなさい。王の勅命ですよ』

「ふざけんな、このクソナノマシン」

 リリスの怒りが頂点に達した。


 リリスとサプライズの口喧嘩を他所に、ベルフが涼しい顔をしている。

 そして、魔術師のミナが私のなら触らせても良いかもと思いつめて、ベルフに提案しようとした時のことだ。


「おい、この赤いマークの集団はなんだ?」

 ベルフの言葉にサプライズとリリスが喧嘩を止める。


 三人が空中に映しだされている探知画面を覗き込む。そこには、ある箇所だけ異様に赤いマークが密集していた。


「ねえリリス、これってもしかして」

 ミナが少し青い顔をしている。リリスも同様だ。

「ええ、間違いないわ。スライムね」


 スライム。不定形の液体生物。全長は三十㎝から五十㎝程度。攻撃方法は身にまとっている液体部分を硬質化させての体当たりが基本だ。

 スライムは、体内にある赤い色をした核の部分を潰さないと致命傷にはならない。基本的に悪食で、動物だろうと、虫だろうと、同じ魔物だろうと、とにかくなんでも食べる。基本的に集団ではなく個別で生活している魔物である。


 ベルフが二人に質問を投げかける。

「スライムと言う魔物は、こんなに集まるものなのか?」


 リリスがベルフの質問に答えた。

「動物や魔物の死体があると、たまにその周囲に集まってくるのよ。特にスライムは、ゴブリンの脳みそが好物でね。誰かがゴブリンの頭をかち割って倒すとか馬鹿なことしたのかしら。そんなことしたら、地面に散らばったゴブリンの脳みそ目当てに周囲のスライムが集まってくるのに」


 一体誰がゴブリンの頭をかち割るなんて馬鹿な事をしたのだろうか。本当にわからないと言った顔でベルフはごまかすことにした。


『それでどうするんですか? あのスライム達を避けて通りますか? それだと街までちょっと遠回りすることになりますが』


 リリスはサプライズの質問に

「それなら気にしなくてもいいわ。あいつら食事に夢中になっているから、こっちには気づかないはず。まあ、余程のことが起きなければ平気ね」


 三人はこっそりとスライムの近くを通ることにした。先頭はベルフ、真ん中にリリス、一番後ろにミナの格好だ。物音を立てずに三人が一列になって歩く。


 スライムたちに集られているゴブリンの死体は、皮膚が溶かされていて体の中身が見えていた。その光景に魔物の死体を見慣れている筈のリリスとミナも渋い顔をする。下手に襲われたら、次のグロ死体になるのは自分達なのだから当然である。


 三人が時間を掛けてゆっくりと歩き続けると、ようやくスライム達の近くを通り抜けて大きな道まで出た。この道はベルフ達が行きに通ってきた道で、後はここを真っ直ぐ進んでいけば街まで戻ることが出来る。


「なんだ、大したことなかったな。あんなスライム共は恐れるに足りなかった」

 ベルフは鞘から剣を引き抜くと、シャキーンと天に向かって構えた。


「馬鹿言ってんじゃないの。でも本当によかったわ、なんとか街まで戻れそうね」

「本当だよ。一時はどうなるかと思った」

 リリスとミナは、一時期は死を覚悟していたこともあって、事更に顔に喜びを浮かべている。


 さて、そんな空気の中でサプライズが、ちょっと気になっていた質問をリリスとミナに投げかける。

『ところで小娘達に聞きたいのですが、スライム達に襲われる余程のことって例えば何ですか?』


 サプライズ自身も、なぜこんな事を聞いたのかわからない。しかし、サプライズの奥深くの部分が、やっべーって絶対やべーって今聞かないとマジやっべーってと語りかけてくるのだ。


 サプライズの、その質問にまずリリスが答えた。

「そうね、例えば今ベルフが掲げている剣がゴブリンの頭に直撃して、しかも川で剣も洗わずゴブリンの頭の中身が剣にこびり付いたままだったとかじゃない限り安心ね」


 ベルフとサプライズが無言でベルフの掲げている剣を見る。ちょっぴり汚れがこびりついているのは気のせいだろうか。


「リリスの言葉に補足すると、スライム達の食事が今まさに終わって獲物を探している。とかでもない限りは、それでも大丈夫だよ」


 ミナの言葉を聞いたベルフとサプライズがスライム達を見る。今まさに食事が終わったのだろうか、スライム達は一斉にこっちを見ていた。


「サプライズ。確かお前は、俺の身体能力を上げる支援能力があると言っていたな」

『はいベルフ様』

「今すぐ俺に使え、すぐにだ」

『わかりましたベルフ様』


 ベルフとサプライズの様子に、リリスとミナが首をかしげる。

「俺が合図をしたら全員、街へ向かって全力で走れ」

「え、ちょっと待って、私は足を怪我してるから走れない――」


 そう答えたリリスをベルフが、右肩に荷物をしょい込むような格好で軽々と担ぎ上げる。サプライズの能力でベルフの身体能力が上がっているから、これくらいわけないのである。


『なっ!? こっこっ小娘。今すぐそこから降りろ、ベルフ様に触れるなどと百年早いわ!!』


 サプライズが激昂しているが、当のリリスも慌てていた。いきなり密着する形で肩に担がれれば、どんなやつだって慌てるだろう。


「ちょっとあんたなにしてるのよ、離しなさい、離せって、え?」


 ベルフの肩に担がれて、顔が後ろを向く形になっているリリスの視線の先に、先ほどのスライムたちが映る。スライム達は、どこにそんな脚力があるんだよとばかりに、すごい速さでこちらに向かってきていた。


「リリス、何騒いでるの? 後ろに何かあるの?」

 ミナがそう言いながら後ろを振り向くと、彼女も状況が理解できたらしい。大量のスライム達の姿を確認したのか、ミナの顔がひきつっている。


「全員、街まで走れー!!」

 

 その合図とともに、ベルフ達は全力で走り出す。大量のスライムを街まで引き連れながら。


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