表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第三章 ベルフ護衛をする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/86

第六十九話 お引っ越し

 ベルフ探偵事務所、もといエメラの隠れ家玄関前で、エメラと一人の騎士が話していた。

「と、言うわけで何とかして、エメラ様を陛下に引き合わせます」

「本当に、本当なのね」

 エメラが騎士の方を掴んでガクガクと揺らしていた。体格では男である騎士の方が優れていたが、どこから出てんだよと言わんばかりの強い力でがっくんがっくんとエメラが騎士の身体を揺さぶっていた。


「本当です。ですから、近いうちにこの家からも引き払うのが良いでしょう」

「本当に、本当なんだ……」

 エメラの顔がぱあっと喜びで彩られていた。元々美人であるエメラなので、その笑顔はかなり見栄えがしていた。


 そんなエメラの笑顔に見惚れていた騎士が咳払いを一つする。

「では、私はそろそろこれで……ところで、ボボス殿はともかく、この家にいるもう一人の男、あれは一体」

「あの男については気にしないで、単なる私の護衛だから」

「は、はあ」


 余り納得していなさそうな返事をすると、騎士はエメラに頭を一つ下げてから立ち去った。

 その騎士を見送ると、ごきげんな足取りでエメラが家の中へと戻っていく、軽くスキップもしているくらいだ。


「ねえ、ついにやったわ……ってどうしたの」


 居間にエメラが戻ると、そこでは暗い顔でうなだれているベルフと、難しい顔をしたボボスがいた。


「手駒になる騎士が予定より少ない、一体どうなってるんだこの国は!!」

 ダンッと机を叩くと、ベルフが毒づいた。

「しかたねえさベルフ。これは予想できたことだ」

 そのベルフの肩に手を置いてボボスが慰めた。

『予想できた、ということはやはりこの国は……』


 三者三様で神妙な面持ちで塞ぎ込んでいる。普段からバカMAXのこいつらが一体どうしたんだ、エメラはそう不思議に思いながら彼等に話しかけることにした。

「えっと、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもあるか!!」


 ベルフが悔しそうな顔で再びテーブルに拳を叩きつける。そして、ベルフの態度に狼狽するエメラに向かってベルフが吐きつけるように言った。


「エメラ、この国の騎士団の奴らはなんであんなに清廉潔白なんだ!?」


 ベルフが発した言葉を少しの間、エメラは理解できなかった。はて、自分の耳がおかしくなったんじゃろかいと思いながらもう一度ベルフの言葉を反芻してみたがやっぱり理解できなかった。


「清廉潔白だと悪いの?」

「悪いに決まってる、清廉潔白な奴らの弱みをどうやって握ろっていうんだ」

『その通りです、弱みを握れないなんてどうすればいいんですか』

「握らなきゃいいじゃんそんなもの……」


 しかし、エメラの正論は彼等には通じなかった。

「弱みを握らないでどうやってこの国の騎士団を支配するんだ? 馬鹿か?」

「ねえ、なんでそこまでこの国そのものに敵意を向けてるの。騎士団を支配できないとそんなに困るものなの?」

『ちっわかってない女ですねー、治安維持組織の実権を握るのは男の生まれ持ったロマンなんですよ。ベルフ様はこの国でそれを実現しようとしているのです、誇りに思いなさい』


 エメラが手をひらひらと動かす。

「心配して損した。だいたい、騎士団長のダニエルは上手く手玉に取ったかもしれないけど、この国にはお父様直々に目を掛けてきた本物の騎士達もいるんだから弱みを握れないのは当然でしょ。まあ、騎士団と言っても下の人間達はお父様から騎士にふさわしくないと思われている人間ばかりだから悪人も多いでしょうけどね」


 ちょっと誇らしげにエメラがそう言うと、ベルフがツッコミを入れる。

「いや、近衛騎士団と言うか上の方は問題なく弱みを握れたんだ。問題は下の奴らでな、実務で動いてる奴らの頭の硬い事と言ったらしかたねえんだ」

『ええ全くびっくりしましたよ、なんですかこいつらは。安月給に激務に不遇な待遇と汚職がはびこる要素満点なのに全く隙がありません。一人一人が普通の国なら要職についても全くおかしくないほどの傑物たちです。私もびっくりしました』


 エメラが褒めくさっていた騎士団の上の方は既にベルフとサプライズの手の内にあった。全員ではないだろうが、この話しぶりからすると少なくない数が手の内にあると見ていいだろう。


「いやいや、そんな筈ないでしょ、だって彼等はお父様直々に選んだ騎士達なのよ」

『おや、ベルフ様を信じないのですか? んーそうですねえ、例えばさっき貴女が会っていた近衛騎士がいますよね、あれの現在の姿を見せてあげましょう』


 そう言ったサプライズが空中に画面を映し出す、と、そこにはエメラと先程話していた騎士が写っていた。そしてその騎士は、髪を金色に染めたモヒカン頭の巨漢と話している。

「という訳で、数日以内にエメラ様はこの場所に来るはずだ。その時にしっかり捕まえておけよ」

「いいぜ、任せな」

 モヒカンがそういうと、彼の周りに集まっている子分たちが一斉に猿のような雄叫びを上げた。

「しかしいいのか? 国の騎士様がこんなことしてよ」

「誤解しているようだが、これは立派に国のためになることなんだ、捕まえた後に売り払う――もとい引き渡す先はエメラ様の婚約者だしな。私はその為の仲介人というだけだよ」

「で、懐にはどれだけ入るんですか旦那?」

「それはお前……これくらいだな」

「そんなに!! それなら俺達にくれる報酬ももう少し上げてくださいよ」


 映像の先で騎士とモヒカン達が下品に笑い始めると、エメラに対する下世話な話に入った。と、ここでサプライズが映像を切る。


 鼻くそほじりながらベルフがエメラに語り掛ける。ちなみに、映像の途中辺りから彼女は下うつむいていた。

「そういえば、この部屋に入ってきた時についにやったわとか言ってたけど、どうしたんだ」

「……遠方にいる父の元まで極秘に移送してくれるって、だからもう隠れなくてすむって聞いたの」

「それは誰から聞いたんだ?」

「……今の映像に写っていた近衛騎士です」

「ほーん」

 偉そうにソファーに座りながらエメラの言葉を聞くベルフと、自身の両膝に手を置きながら顔を下に向けているエメラ。先程までのベルフとエメラの態度がまるで逆になっていた。


『ほー、王様の元へですか。だとすると、あの騎士と一緒に映っていたモヒカンがこの国の王様ってわけですかな。なるほど、確かになかなか立派なモヒカンでしたね、もしも彼が野生の馬であれば、あの立派な鬣は草原の支配者の証になると考えて良いのかもしれません』


 エメラに向けたサプライズの追撃が始まった。当然ではあるが、あのモヒカンがエメラの父親なんてことはまず無い。

 ぷるぷる震えているエメラと余裕たっぷりのベルフ。どちらが正しいのかは既に決着が着いたと言って良い。しかし、そこでボボスが口を挟んできた。


「ところでよお、あの分だとこの隠れ家に住むのはやばくねえか。エメラがあの騎士のおっさんの指定した場所に行かないとわかったら、あのモヒカン達が強硬手段としてここまで誘拐しにやってくるんじゃねえの」


 そこでベルフとエメラも、あっと言う顔になった。

『ふむ、確かにこのアル中の言うとおりですね。単純に戦っても勝てるとは思いますが、相手の規模も正確にはわかってませんし。ふむ、どうしましょうか』


 ベルフはともかく、エメラがちょっと縋り付くような目でベルフを見ていた。窮すれば濫すと言うことわざがあるように、エメラは今まちがった方面に助けを求めようとしている。


 そして、そんなエメラの期待に応えるようにベルフはよしっと一声かけると立ち上がった。

「少し早いが、あれを発動させるか。ボボス、パトズを呼んでこい、すぐにあの計画を開始させるぞ」

 ボボスが少し驚くと、ベルフの方へと向き直す。

「あれってもしかしてあれか? だが、まだタイミングが早いんじゃないのか」

『そうですよ、あれはもっとこの国の奥深くに根付いてから発動させるものです、今行動しても潰されてしまいます』


 しかし、そんな二人からの反対意見にもベルフは怯まなかった。

「いや、今しかない!! 事態が進展しない以上、これ以上弱みを握る必要はなくなった、それに……エメラを別の場所に匿ってやらないといけなくなったからな」


 そこでキラリっとベルフが笑う。その姿に、エメラは少しだけベルフを格好いいと思ってしまった。無論、エメラの感じた感情は末期の人間が見る幻覚のようなものである。


 ひとしきり格好をつけると、ベルフが出発だとばかりに街へと飛び出そうとする。

「よしお前ら、早速行動を開始するぞ、もたもたするな」

 主人公ベルフ、堂々の出陣であった。


前半だけでもとりあえず投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ