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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第三章 ベルフ護衛をする

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第六十七話 買い物

 あれから数日、エメラから事情を聞いたベルフ達であったが、それから特に変わったこともなく穏やかに日々が進んでいた。騎士が突撃してくるわけでもなく、エメラを狙った暗殺者が襲撃してくるわけでもなく、今日も趣味と金稼ぎである情報屋家業に彼等は頭から突っ込んでいた。


「うーんどうしたもんかなあ」

『参りましたねえ』


 ベルフが自宅にて、書類をテーブルをにおいて悩んでいた。彼は腕を組んで頭をかしげながら難しい顔をしている。サプライズも、ベルフの身につけているリストバンドから同じように悩んでる風の声を発していた。


『やっぱりやるならこっちっすよ、この品行方正な騎士様の裏の顔を暴くべきっす』

「いやだが、俺の勘はこっちの女騎士のほうが黒だと囁いているんだよなあ」


 そう、彼等は次なる獲物を定める最中であった。騎士団長であるダニエルを抑えた彼等としては、次に実務レベルの人間の首根っこを押さえつけようとしているのだ。少しずつ、しかし確実に国家権力の中枢である騎士団を掌握しようとしていた。


「おい、ボボスはどっちが良いと思う?」

「あーん? 女の方でいいんじゃねえか。ダニエルのおっさんに続いて次も男じゃあ、むさいからな。食生活もそうだがバランスってのは大事だ」

「んじゃそうすっか。サプライズ、この女騎士の弱みを握るぞ」

『わっかりましたー』


 アドバイザーであるボボスから的確な言葉を受け取ると次の犠牲者が決まった。

 使っている化粧品から好きな違法薬物の種類まで、弱みになりそうな物は全部握るつもりでいる。基本的に男女平等であるベルフ達に容赦の言葉はない。


『ただ、ちーとばかしペースが遅いですねえ。護衛の依頼が終わるまでに目標達成できるかは微妙ですぜ』

「しかし、慌てた結果失敗したのでは目も当てられないからな。じっくりやるしかない」

 焦るサプライズと腰を押し付けているベルフ。これが主であるベルフが焦っていれば危険であるが、トップであるベルフは落ち着いたものであるから彼等に隙はなかった。


 そうして、今後のスケジュールを決めていると、不意にエメラがベルフ達のいるリビングに入ってきた。

「ベルフ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど良いかしら」

「やだ」

『今忙しいんですよ後にしなさい。この国を乗っ取れるかどうかの瀬戸際なんです』


 一応、この国の支配者の一族であるエメラとしては国を乗っ取れるだのの言葉は見過ごせる物ではない。だが、こいつらにいくら言っても無駄だということは、ここ一ヶ月の付き合いでわかっていた。という事で何事もなかったかのようにサプライズの言葉をスルーする。


「別に、時間は掛けないからちょっと行きたいところがあるの。ボボスだと護衛として役に立たないし、ベルフに頼むしか無いのよ」


 と言うと、彼等がボボスの方を見る。頼れるエメラの従者であるボボスは、既にアルコールのお力で出来上がっていた。目は焦点が定まっておらず、足は生まれたての子鹿のように震えている。これでは護衛を任せるどころか、むしろ介護が必要なレベルであった。


「なんだと、オレが役に立たないってのか! いまもこうして邪悪な異世界からの侵略者と戦っているというのに」


 そう言うとボボスが酒瓶を片手にブンブンと振り回す。現在彼は、彼の脳内にしか存在しない邪悪な異世界妖精族と決死のバトルをしていた。愛しいエメラを、友のベルフを守るために彼は命がけで戦っているのだ。


 と、そんな風に酒瓶を振り回していると、スポンと酒瓶が手から抜けて、そのままの勢いでエメラの額にごつーんと当たった。まるで、新年を祝う除夜の鐘のような深く静かに響く音がエメラの頭蓋骨から鳴り響いた。


「オラ嗚呼ッ!!」


 エメラが王女様とは思えない掛け声を挙げてボボスのドタマを足で踏んづけた。痛みで悶えるよりもまず先に襲撃者へ反撃するところは、彼女の才能が生粋のストライカーであるが故だろう。


 泡拭いて一撃KOされたボボスを地面に捨て置くと、何事もなかったかのようにエメラが話の続きを始める。


「そういうわけで、ちょっと錬金術の素材が足りなくなってきたから街まで付き合ってほしいの。私一人でも大抵の相手なら返り討ちにできるけど護衛の一人くらいは欲しいから。わかった?」

「あ、はい」

『あ、はい』

 そうして、ベルフ達はエメラに付き合うことになった。



 この区画の店では、一見するとガラクタばかりが商品として並んでいるように見えた。路を歩いている人間達はどこか陰気で、それらに合わせる様に周囲の建物も暗く、淀んだ雰囲気が見える。


 そんな表の場所から半歩ばかり裏に入り込んだこの場所で、いつものように静けさと暗さが支配していると突然、一つの店の扉が吹き飛んだ。その扉が道を挟んだ向かいにある街路樹に突っ込むと、木に豪快に突き刺さる。

 

 道を歩いていた通行人が何事かと思っている中で、その問題の店の中から取引を終えたエメラとベルフが出てきた。


「良い店ね、次からもここを利用しましょう」

「あの店主泣き顔寸前だった気もするが、あれでいい取引だったのか」

『まあこちらとしては良い取引でしたね、相手にとっては知らないですが』


 ホクホク顔のエメラと無気力顔のベルフ。特にエメラの方は妙に上機嫌だった。

「良いのよ、最初に私の作った薬を買い叩こうとして、店の用心棒を差し向けたのはあっちだしね。気にすることもないわ」

「まあそれもそうか」


 エメラが錬金術で作った薬を店に下ろそうとしたのはつい先程の話。そのエメラの薬を安く買い叩こうと、店主が欲を出して取り巻きに脅迫させてしまったのが店主にとっての災いだった。

 あとはベルフ達に取り巻きごと叩きのめされて、正当防衛の暴力から来る取引を一方的に店側が飲まされることになった。

 おかげで店主は今後ベルフとエメラにたかられ続けることが決定した。

 

「しかし、意外と強いんだなエメラは。腕力だけかと思ったら魔法も使えるとは思わなかった」

 先程の用心棒達との大立ち回りと、扉ぶっ飛ばし行動を思い出して、ベルフが感慨深そうに言う。そう、先程の扉ぶっ飛ばし騒ぎはエメラの魔法が起こしたものであった。


『そっすね、ただの錬金馬鹿かグラップラーの国のお姫様だと思っていたら、まさかの魔法も使えるとは驚きです』

「これのこと? これなら魔法じゃないわよ、正しくいうと召喚術ね」


 そういうとエメラが手を上向きにする。すると少しの魔力の輝きのあとに一匹の小さな羽の付いた妖精が現れた。

「この子はシルフ、さっきもこの子が私を守ってくれてたの。見た目に反してかなり強いから頼りになるのよね」


 シルフがエメラの顔や髪に纏わり付いてじゃれ付きはじめる。見た目だけは麗しいエメラであるから、その場面はかなり絵になった。そんなエメラをいつもながらの気の抜けた顔でベルフが見ている。


「そう言えばエメラ、さっきの店に卸していた薬は何なんだ? 精神がハッピーになれる系の薬か?」

『そらそうですよベルフ様。錬金術士がこんな薄暗い場所で捌く物といったら後ろめたい系しかありません。全く、綺麗な顔をして心は悪魔ですねこの女は』


 あーやだやだとか奥様口調で話すベルフとサプライズに、ちょっと慌てた様子のエメラが反論する。

「あれはちゃんとした治療薬よ。主に内臓系の病気に効くかなり効果の高い薬なんだからね。まあだからこそ、そんなまともな物を表で取引出来ない後ろめたい人間だと思われて、足元見られたんでしょうけど」


 それを聞いたベルフが不満そうに言い返した。

「それはつまらんな。俺は薬を売ると聞いて、内心ワクワクしていたんだが? 王女様が路銀稼ぎの果てに自国の国民を食い物にするというシチュこそ俺が求めていたものであって、そんな真っ当な治療薬を売るためにここに来たわけではない」

 ベルフの悲しい慟哭にサプライズが続いた。

『そっすよ、ベルフ様と私のワクワクドキドキを返してください。そんな真っ当な商売をするためにここに来たんじゃないんです』

「そうなんだ、でも私はその真っ当な取引をするためにここに来たから諦めてね」


 さらりと切り捨てると、当初の目的の一つである錬金術の素材を買いに歩みを進める。

「じゃあ錬金術の素材を買ったら帰りましょうか。ちょっと騒ぎも起こしたし今日のところは早く帰りましょう」

「ふーん、ところでその素材とやらは所謂非合法的なものを作るために必要な物なのか?」

『そらそうですよベルフ様。錬金術士がこんな場所で物を買い漁るとしたら後ろめたい系しかありません。全く、綺麗な顔をして心は裏社会ですねこの女は』


 あーやだやだとか、先ほどと同じ奥様口調で話すベルフ達に、うんざりした顔でエメラが答える。

「もうそういうの良いから。でもそうね、何を作るための素材なのか本当に聞きたい?」

「まあそこそこ聞きたい」

『つまんねえ物品以外なら聞きたいっすね。価値あるものなら聞きたいです』


 ベルフ達の返答に頷くとエメラが答えた。

「エリクサーを作るための素材よ」

「嘘だな」

『嘘ですね』

 しかし、ベルフたちはバッサリ切り捨てた。


 ベルフたちからの言葉を聞いたエメラが頬を引きつらせる。

「ねえ、もう少し信じても良いんじゃないかしら」

「いやだって、ここでエリクサーの素材を調達できるとかは無理があるだろ」

『そっすよ、伝説の秘法だとか究極モンスターから剥ぎ取った素材とかならわかりますが、ここですよ?』


 そういってベルフが周囲に手を向ける。露天では、低級のモンスターから剥ぎ取れたゴブリンの角などが相場の倍から10倍で売られ、店の中ではいかがわしい店主がモンスター退治に勤しむスラムの子ども達から、お代官様も真っ青なほどのピンハネで素材を値切っていた。

 どう考えても伝説の霊薬とやらの素材が揃う場所ではない。


「まあ信じなくてもいいけどね、信じてもらえるとも思ってないし」

「だとすると、やはり後ろめたい系の……」

『この女の人ったら見かけによらず……』


 またしても奥様口調に戻ったベルフ達を無視してエメラが買い物を続ける。

 本来ならばエメラのような女性は、舐められるか足元を見られるかであったが、先程のエメラ達が暴れた騒動が利いているのか、店主たちは実に腰の低い態度であった。


 中には、チンピラ風の男が姐さんだのと呼んでエメラに擦り寄ってきたが、それらをヤクザキックで追い返すなどしながら目的のものを買い漁る。

 そうして、満足がいくほどに買い集めると、持ってきた手提げ袋にどっさりと素材の類いが詰め込まれる程の量になった。


 エメラがちらりとベルフを見ると弱々しそうに言った。

「こういう時、気が利く男の人なら自分が荷物を持つとか言うと思わない?」

「なに言ってんだこいつ」

『舐めんなこのクソアマ』


 残念ながら、宇宙一気が利かない男であるベルフにそれは通じない。テメエで買ったものなんだからテメエが持てよという態度である。

 しかし、ベルフの心情はともかくとして、女性であるエメラに荷物をもたせたまま帰路を歩いていると、周囲の視線がベルフ達に刺さった。


 一応、見た目と気品だけは素晴らしい女性であるエメラが荷物いっぱいに持って苦しそうに歩いている。で、そんなエメラに手を貸さずに男のベルフが堂々と手ぶらで隣を歩いている。つまり、周りから見れば、なんだこの男は美しい女性に手を貸さずに不親切なやつ極まりないなと思われるいうことだ。


 ベルフ自身は特に気にもしてなかったが、周りはそうは思わないのである。特にエメラに対して好意を持ちそうな性欲溢れる健康な男性諸君であれば全員、ベルフに対して害意に近い視線を向けていた。


 そして、そんなベルフに向けて一人の男が突っかかってきた。

「おい貴様、その女性が苦しそうじゃないか、手を貸してやれ」

 それは一人の正義マンであった。

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