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第六話 リリスとミナ

 夕焼けも沈みかけた囁きの森。

 辺りは薄暗く、木々の隙間からは幾つもの魔物たちの鳴き声が聞こえてくる。

 昼であれば冒険者達の狩場であるこの森も、夜になればその姿をガラリと変えた。


 それは、森の生態系が変わるわけではない。ただ単に夜になれば、森の中に居る冒険者達が少なくなるからである。

 そして、その単に冒険者が少なくなると言う事実がこの森の支配者を人から魔物に変えるのだ。

 そんな囁きの森深くで、二人組みの冒険者が取り残されていた。



 一人の女性が木々に囲まれながら、足首に手を当てて身を隠すようにしている。

 彼女は先ほど、ベルフに後を付けられていた女剣士だ。足に手を当てては時折、顔を痛みでしかめている。


 そして、その女剣士の近くには仲間の女魔術師もいた。彼女も仲間の女剣士と同じように、魔物達に見つからないように必死で身を縮めていた。


「足の具合は大丈夫リリス? 歩けそう?」

「ごめんねミナ。普通に歩くのもだけど、戦闘するのも無理そう。とにかく朝が来るまでここに身を隠すしかないわ」


 女剣士のリリスと魔術師のミナ。彼女達はベルフと別れた後、運が悪いことにゴブリンの集団と出くわしてしまう。一応、二人は苦戦しながらもそのゴブリン達は倒せたが、その戦闘でリリスが足を怪我してしまった。


 そして、更に運の悪いことに彼女達がいる場所は街からかなり離れている。

 普通に歩くのならまだしも、足に怪我をした状況では致命的だ。これでは、確実に街に付く前に夜になってしまう。

 魔物たちがひしめき合う森の中を、暗闇の中で歩き続ける。それは森の中で遭難するか、魔物から不意打ちをくらって死ぬかの二つに一つ、決して選んではいけない道であった。

 

「でもリリス、仮に朝まで待っても、怪我をしている状況で街まで帰れるの? 道中には魔物だって出てくるよ」

「それは……」


 リリスがミナの言葉に言い淀む。朝になれば確かに道に迷うことはないだろう。だが、それでも怪我をしている状況に変わりはない。街まで無事に帰るには、よほど運が良くないと難しいだろう。


 と、その時なにかの足跡が近くで聞こえた。

 魔物が近づいてきたのかと身構えるリリスとミナ。ざっざっざっと足音を立てて何者かが一直線にこちらへ近づいてきている。


 自分達が身を隠している木の向こう側に、生き物の気配がするのがわかる。リリスは剣に手をかけると、ミナと目配せをした。

 そして、リリスが勇気を出して木の影からそっと向こう側を見ると……


「お前らなにをしているんだ?」

 先程のストーカー野郎、もといベルフ君がそこにいた。


 ベルフの姿を確認したリリスとミナは構えていた態勢を解く。人間の姿を確認したことで緊張の糸が途切れたのだろう。


「あんたさっきの迷惑野郎じゃないの。あんたこそ何でこんなところにいるのよ」

 リリスがケンカ腰で相手をしてくる。


『うるさいですねこの女は。ベルフ様が何をしているのかと聞いているのだから早く答えなさい』

 サプライズの言葉にリリスの顔に怒りの青筋が出てくるが、ミナがそれを宥める。


「俺はサプライズの探知機能で、人がここにいると知ったから様子を見に来ただけだ。サプライズ、画面を出せ」

『わかりましたベルフ様』


 ベルフの命令を聞いたサプライズが、空中にディスプレイ画面のような物を映し出した。テレビやパソコンのディスプレイ部分だけを切り取って、空中に画面として映し出す。そんな感じだ。


 そして探知画面には、赤マークに囲まれている青い点が3つある。赤色は魔物で、青色の方はベルフとリリスとミナである。


 リリスとミナはいきなり空中に現れたその映像に驚いていた。二人は、前からみたり、後ろに回りこんで覗きこんだりと様々な角度から、それを眺める。

「なによこれ、こんな魔法見たことないわよ。ミナ知ってる?」


 リリスの言葉にしばしミナは考えこんでから、何か思い当たったように顔を上げる。

「もしかしてナノマシン?」 

「ナノマシン?」


 リリスの言葉に一つミナは頷いてから。

「古代の遺跡からたまに発掘される使い魔だよ。どれもこれもすごい能力を持っていると聞いたことがある。でも凄く高価だからナノマシンを持っているなんて、それこそ王様か大貴族じゃないとありえないけど……」


 リリスとミナの二人はベルフを見る。このやっすそうな装備に身を包んだ男が王様や大貴族に見えるのかと言うと全く見えないのだ。


『ほう、どうやら物を知っている小娘がいるみたいですね。その通り、私が最凶のナノマシン、人類教育プログラム、サプライズ一号です。それと、ベルフ様をそこいらの王や貴族と一緒にしないでいただきましょう。ベルフ様はいずれ、この大陸に君臨する大陸覇王となる人間です』


 その未来の大陸覇王は、鼻くそほじりながら飽きたとばかりにサプライズたちの話を聞いていた。リリスとミナがベルフに向ける目線が一際きつくなる。


 二人から存分に疑いの目線を向けられること十数秒。ついにベルフも話に参加してきた。

「で、俺達はこれから森を脱出するが一緒に来るか?」


 ベルフからの唐突な提案にリリスが必死に止めようとする。

「ちょっと待って、夜の森を少人数で無闇に歩いていたら迷うか魔物に囲まれて死ぬだけよ。貴方も遭難したのなら、朝までここにいて魔物から隠れていた方が良いわ」


 ミナもそれに合わせるように。

「リリスの言う通りだよ。三人でここに固まって下手に動かないほうが良いよ」


 しかし、二人の言葉を聞いたサプライズは一つため息を付いてから、空中に映しだされている画面をぐいっと二人に近づけて見せる。


『これさえあれば、魔物と出会いそうなら隠れるなり逃げるなりして、戦闘を避けることも出来ます。さらに、探知範囲を広げるとこういう事も出来ます』


 サプライズが探知範囲を広げる。すると、画面に映し出されている赤いマークの量が一気に増えて、その代わりに一つ一つのマークが小さくなった。探知範囲を広げて、画面に表示する情報量を多くしたからだ。


 そうやって範囲を広げると、画面には赤いマークだけではなくて多数の青いマークが画面下側に映しだされているのがわかる。この青いマークは、ここから離れている街の人間達の生命反応だ。


『こうすれば、街までの方角もわかります。こんなところに隠れているより、ベルフ様と一緒に街まで帰る方がよっぽど安全ですよ』


 リリスとミナは決心がつかない。どうすれば良いのか迷っているのだ。

 そんな二人にベルフが言った。

「とりあえず事情は話しながら聞こう。よくみろ、周りの赤いマークがこっちに近づいてきてるぞ」

 

 会話がうるさかったのか、それとも匂いか何かに釣られたのか、画面に映っている周りの赤いマーク達が徐々に三人を示す青いマークに近寄ってきていた。


『確かに、ここにいると危険ですねベルフ様。ほら、そこの小娘ども、さっさとベルフ様についてきなさい。置いていきますよ』


 もう用はないとばかりに、さっさとその場から歩き出すベルフ。リリスとミナは一度お互いに顔を見合わせると、決心が着いたのかベルフの後を追いかけていった。


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