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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第五十三話 ボス登場

 ラナケロスの街、中央広場には大穴が開いていた。

 普段は待ち合わせや憩いの場として使われている中央広場ではあったが、今はそんな生易しい雰囲気ではない。

 ルドルフからの命令を受けた魔術師達が、野次馬達を近づけないように大穴の周りを封鎖し、更に広場には町の住人達が多数詰めかけている。


 レイラとカイが人混みの中をかき分けて大穴まで辿り着くと、そこから穴の中を覗き込む。周りにいる魔術師達もレイラが勇者だと知っているのか、彼女の行動を止めようとはしていない。

「これは見事なまでにエデンまで通じてますね」

 レイラが感嘆の声を上げる。

「そうですね勇者様。しかし、どうしてこんなものがあるのでしょう……」

 カイの方も穴を覗き込むと疑問を口にする。


 開いている穴の直径は十メートル前後。薄暗い穴の中を覗くとうっすらと木々が見える。どうやら、この穴の底はエデンにまで通じているようだ。


 そして、原因がわからないのはレイラ達だけではない。この穴を調査している魔術師達も街の人間達もその原因には心当たりがなかった。

 いきなり現れたこの大穴は、ルドルフの口調からしてエデンと関係があるらしい。だがしかし、街の人間達もレイラ達もさっぱり原因がわからない。となると、これについて詳しく知っていそうなヤツはレイラの心当たりのある中では、たった一人しかいなかった。


 レイラが断定するように言う。

「これはベルフさん関係ですね、間違いない」

「あの方ですか?」

「ええ、あいつです。つい最近までエデンの内部にいたはずですし、少なくともあいつは何か知っているはずです」


 そうして二人がしばらく話し込んでいると、ふいに周りの野次馬達から、どよめきが聴こえてきた。

『おらーベルフ様のお通りじゃー』

「お通りじゃー」

 と同時に、レイラとカイにとって聞き覚えのある声がしてくる。

 そうして、野次馬たちを掻き分けて現れたのは、ベルフ、ルドルフ、そして市庁舎にいたゴードン含む街の要人達だった。

 重要参考人であるベルフを連れて、彼等が現場までやって来たのだ。


 彼等が広場に開いている大穴の前まで来ると、その様子を街の人間達も固唾を呑んで見守る。勇者であるレイラ、街の要人達、そして謎の不審人物であるベルフ。彼等が来たことで、事態が動く事は間違いがなかった。


 大穴を覗き込んで絶句していた彼等の中で、開口一番、言葉を発したのはゴードンだ。

「これはなんだ、ルドルフ、説明しろ!」

 そして、ルドルフがそれに律儀に応える

「周囲に残滓している魔力から考えて、ほぼ間違いなく何者かが放った魔法のせいだ。それと目撃した人間からの話だと、地面から空に向かって黒い光が空に向かって突き抜けていったらしい。つまり、地下にいる何者かが魔法を使って作り上げた大穴だ。通常の魔法の規模としてとしては、ちょっと大きすぎる代物だがな」

「地下からだと……」

 

 そこでゴードンの視線が一人の男に突き刺さった。そう、今朝方まで地下に潜っていた唯一の人間、ベルフに対してである。

「ベルフ殿、少しいいですかな」

「んー? なんだゴードン」

「この大穴について心当たりはありますかな?」

「さて、どうだったかなー、サプライズ、心当たりはあるか?」

『さ~、私にはさっぱりですねー』

 ベルフは、心底わっかんねーと言った顔で答えた。


 その様子を見ていたルドルフがゴードンに質問する。

「ところでゴードン、さっきから気になっていたんだが、そいつは誰だ?」

「この方はベルフ殿だ。ナノマシン付きの冒険者で、なんでも、彼の活躍で地下にいるアンデッド達をほぼ全滅させた上にエデンそのものの機能を潰した……らしいんだが」

「エデンの機能を潰しただと?」


 ルドルフが懐疑的な目でベルフを見ていた。そしてベルフの方は、その視線を受けて平然としている。いかついジジイ魔術師からの厳しい目線も、ベルフにしてみればどうということはなかった。


 両者が啀み合っているのを見てレイラは思う。先程、神殿長であるカイは、三日でゴードン達とベルフの間に亀裂が入ると言っていたが、どうもその見通しでも甘かったらしい。三日どころか三時間で亀裂が入り始めている。


「しかし酷いもんだなサプライズ。俺のおかげで、この街からアンデッドがいなくなったのに、こうも空気が悪いのはなー」

『ですよねベルフ様。かーー、恩知らずここに極まれりって感じです。大・英・雄であり、この街の救・世・主たるベルフ様に対して、随分と失礼な態度じゃないですかねー?』


 そこいらのチンピラも真っ青な態度でゴードン達に向き直るベルフとサプライズ。先程まで彼等に褒められていたとか讃えられていたとかは全く関係ない。ベルフはポケットに手を突っ込みながら顎をしゃくりあげて、これでもかとばかりに威嚇している。


 膠着状態に陥った場で、レイラが話に割ってきた。

「えー、ルドルフさん、私が改めて説明いたしますと、こちらが冒険者のベルフさん。何でも、少し前までエデンの中にいたらしく、更には強大なアンデッドとも戦っていたお方です」

「強大なアンデッドですと?」

「はい、それについてはベルフさん自身も仰っておりました。私の予想ですと、この大穴についてベルフさんには心当たりがあると思うんですが、ベルフさん、そこの所はどうなんですか?」


 レイラの言葉を聞いたベルフは、顎に手を当てながら、はて?と言う顔をしていた。ただし、レイラの言葉にゴードン達だけではなく、その話を聞いていた野次馬たちもベルフをきつく睨んでいる。下手な言い逃れはできない雰囲気であった。


「ああ、思い出した。そういえば戦っている最中に、相手が魔法を使ってきたような気がしないでもない、だがまだ正確な情報ではないのかもしれない」

『そう言えば、そんなことがあったのかも知れないですけど、正確な情報かはわからないですね』


 自白、と言って良いのかわからないが、ベルフがこの大穴に関与していることを少しだけ認める。そのベルフにすかさずルドルフが質問を続ける。

「ところで、エデンの機能が壊れたと言ったな?」

「ああそうだ、木っ端微塵に壊れたぞ」

『そのとおりです、エデンの心臓部そのものが壊れました』

「エデンの機能の中心部は、あの地下の空に存在していた偽の太陽だが、もしかしてこの大穴は、それが壊れた時の攻撃のせいか? つまり、それだけのことが出来るやつが、この街の地下にいるんだな」


 ほう、とベルフとサプライズが感嘆の声を出す。

『なかなかやりますね。私でさえつい先日、心臓部を見つけたと言うのに』

「話を逸らすな、それでどうなんだ」

『ちっ……さてどうでしたかね。なんか偶然、空から偽の太陽が落ちてきて壊れたような気がしますー』


 そのベルフとサプライズの態度に、周りにいる野次馬たちの顔が、どんどんと険しくなっていく。そして、その野次馬たちの様子を見たベルフは、大変機嫌が良さそうな顔をしていた。


「いかんぞサプライズ、ちゃんと思い出さないと。うむ、俺は思い出した、そうそう、確かにあいつの魔法で、この大穴は作られたはずだ。きっとそうに違いない」

『あー、言われてみればそうですね、私も思い出しました。今まで忘れていてすいませんねー。特別に、私とベルフ様を許す権利を与えてあげましょう人間ども』


 全力で周りに喧嘩を売っていく二人。ルドルフは冷静そのものだったが、いかんせん、周りは、そうでもなかった。ゴードンも、街の要人たちも、野次馬たちも、全員がベルフに対して怒りの表情を見せている。


 そんな中でたった一人、ベルフの性格を知り尽くしている人間がいた。レイラである。

「えーっとそれでベルフさんはどうしたいんですか?」


「別に俺はどうしたいわけでもない。強いて言うなら、もうエデンも無くなったしラナケロスの街に飽きたから、次の場所に行きたいかなとは思っている」

『ですねー。あいつはちょっと強すぎますし、そこそこ戦える難易度で適度に冒険者生活を送って、充実したヒューマンライフを過ごしたいっすね』


 もう後の問題はお前らに任せた、ベルフはそう主張している。地下にいるあいつを起こした責任だとか、残された町の住人達の今後とかは一切考えていない。とにかく、もうラナケロスには用がなかった。


 そんなベルフの態度にガチギレしたやつがいる。ゴードンだ。

「き、キサマ、キキサマ、そんな事が許されると思っているのか!」

 ゴードンは顔を真赤にしてベルフを指差していた。もはや彼の表情は筆舌にし難い。

「許されるも何も、特にこの街に思い入れもないし、俺としてはとっとと別の場所に行きたいかなって」

『ベルフ様、次はどこが良いですかね。ちょっとこの国で好き勝手しすぎましたし、次は別の国に行きますか』


 キャッキャッと次の行き先を決め始めるベルフとサプライズ。ゴードンだけではなく、他の人間達もベルフに対してヤジを飛ばし始めているが、ベルフは全く気にしていない。

 更に、そのヤジのせいで、ルドルフがベルフと話を続けようとしても、周りの声にかき消されるわ、ベルフは耳を貸さないわで、場の収集がつかなくなっていた。


「皆さん落ち着いて下さーい、それがこいつの目的なんですよ、皆さんを煽って楽しんでるだけなんですよー、聞いて下さーい」

 レイラが周りを説得するが声が届かない。単純に周りとの声量の面で負けていた。


 こりゃあかんと思ってレイラがベルフの元に近づく。

「ちょっとベルフさん、どうするんですか。どう収拾つけるんですか」

「どうって、皆でこの街から逃げる以外にあるのか?」

『そうですよ、他に収拾がつけられる方法なんてあるわけないじゃないですか』

「逃げるって、これだけ周りを囲まれていたら逃げるなんて不可能ですよ」


 そのレイラの言葉にベルフがきょとんとする。

「何を言ってるんだお前は。皆で逃げるの皆の意味は、この街にいる人間全員のことだ」

『よく考えなさい手下三号。エデンに続く大穴が開いている。しかも、この場所にこれだけ生きている人間が居る。地下には、まだあいつがいる。とくれば、間違いなく、アンデッドであるあいつがここにやってきますよ』

「あいつですか?」

『そうです、あいつですよ。とっとと街から逃げないと危な……あ、やつが穴の底からこっちに近づいてきます』


 サプライズが不穏な言葉で区切った。ベルフも彼にしては珍しく、マジで?と言う顔で固まっている。


『さすがあいつですね、私の探知機能なんて使わなくても魔力量だけでトレース可能なのは褒めても良いところでしょうか』

「別に敵を褒めてもいいが、ここで来られると俺達の逃げ場がなくないか?」

 そう言ってからベルフが周りを見る。怒れるラナケロスの住人達がずらりとベルフを逃さないように取り囲んでいた。完全なベルフの自業自得である。


『それも含めて褒めたいところです。偶然とは言え、必殺の陣形をやってくれちゃいましたね。そして、もう時間切れみたいです。ベルフ様、あいつが、リッチが来ましたよ』


 サプライズがそう言ったと同時に、一体の死霊がエデンへと続く大穴から浮かび上がってきた。見てくれは、ボロ布を纏ったスケルトン。外見は人間の白骨死体。過度な装飾も、醜悪な外見もない、ただの人間の骨。

 何の威圧感も持たないそれは、ただ悠然とその場に佇んでいた。

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