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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第四十九話 宇宙の言葉

「は?」


 レイラが思わず間の抜けた声を出す。今、何を言われたのか理解できなかった。聞き間違いか?


「これだけ被害が出て、どう責任を取るつもりだ!」

「そうだ、どうするんだ」

「それでも勇者か」

「なぜもっと早くあの魔物を倒さなかったんだ」

 こちらに駆け寄ってきていた全員がレイラに向けて怒りの表情をしていた。なにがなんだかレイラにはわからない。


 レイラが慌てふためいていると、一人の中年男性がとある場所を指差した。

「あれを見ろ、あれだけの人間が死んだんだぞ!」


 その男性が指差したのは、先程レイスに殺された人達の遺体だ。入り口から逃げようとした人間が不運にも多数死んでいた。死体はレイスの固有魔法のせいで腐敗が進んでおり、視覚的にも酷い有様である。


「いや、だって、それは」

 レイラが口籠るが

「だってなんだ! お前は勇者だろう!」

 その態度に周りの人間が噛み付いてくる。


 なんだこれは、なんなんだこいつらは。先程までの自分とレイスとの死闘を見てなかったのか? あんな巨大な魔物相手に命がけで戦ったんだぞ?


 そして、その怒れる周りの人間達の中から真打ちが現れる。副神殿長のゴードンだ。

「勇者様、なぜ最初からレイスを倒した技を使わなかったのですか」

 ゴードンは厳しい顔でレイラを見ていた。

「なんでって、いやあれは今使えるようになったばかりで」

「つまり、勇者様があの技を使えると知らなかったせいで被害が大きくなったのですな」

「何を言ってんですか?」


 助けられた人間達に四方八方から責められるレイラ。そんな彼女を見かねて、カイが口を挟んできた。

「皆様お待ち下さい、いくらなんでも言い掛かりが過ぎます」


 だがしかし、口を挟んできたカイに、その場にいた人間達が睨みつけて反論してきた。

「何を言っているんですか、こういうときのための勇者でしょう」

「その通りです、有事の場において人々を守るのが勇者のはずです、それがこの失態ですぞ」

「カイ神殿長、死んだ人間達にも同じことが言えますか!」


 彼等からはレイラに助けて貰った恩や感謝の念などは全く感じられなかった。彼等の言葉からは、勇者は人を助けて当たり前だという考えしか感じられない。


 身勝手な周りの意見に、さすがにレイラも腹が立ってきた。怒りのせいか段々と自分が無表情になっていくのが分かった。レイラは決意した、こいつらにレイスを吹き飛ばした先程の衝撃波を御見舞してやる、と。


 そう思ってレイラが剣を強く握りしめるが

――それはだめだ――

 レイラの行おうとしている事を聖剣が止めた。


――我は人を守るための剣。人を傷つけるために使ってはならん――

 はあ? レイラが信じられないと言った目で、手元にある聖剣を見ている


――耐えるのだ。これも勇者になるための試練と思え――

 試練だー?


――真の勇者に成りたいのであれば、この程度のことで心を乱すな――

 この程度だー?


 レイラは怒りで血管が切れる思いだった。このクソ聖剣、何を言ってやがる、人を傷つけてはいけない? 現状、こいつらに言葉責めされて傷つけられてるのは自分の方なんだが。


 周囲の人間だけではなく自分の武器に対してもレイラが疑念を持つ。そんなレイラにゴードンが強い調子で語り掛ける

「聞いているのですか勇者様! 貴方のしでかしたことですぞ!」

「私がしでした? あんな凶悪な魔物に、こんな場所で奇襲されたら犠牲が出るのは仕方ないでしょ」

 レイラはそう答えるが、ゴードンもしつこく食い下がる

「では聞きますが、あの魔物が入り口へ向けて攻撃してきた時に勇者様は何をしていました?」

 何って、そりゃあ腰が抜けてたのは事実だけど……レイラはそう思った。

「ほら見なさい言い返せないじゃないですか。ここにいた人達が死んだのは勇者様のせいですぞ!」

 

 レイラは目の前のクソデブハゲ親父ことゴードンを見る。ゴードンの話す言葉が人間語とは思えなかった。宇宙からやってきた電波を受信して、そのまま口から出している謎の言語だと考えた方がしっくり来るくらいだ。


「副神殿長、お止めなさい!」


 そこで、カイが大声で静止する。彼にしては珍しく、怒った顔をしていた。

「し、しかしカイ神殿長」

「やめなさいと言っているのです!」

 カイが有無を言わさずゴードンの言葉を遮る。普段は温厚なカイが怒っている事に驚いたのか、ゴードン以外の人間たちも黙り込んだ。


「とりあえず勇者様、ここから出ましょうか」

「は、はあ」

 カイに手を引かれてレイラがその場から出ていく。後ろの方でゴードン以下、街の要人達が何かを言っていたが、カイもレイラもそれを無視して、そのまま廊下へと出ていく。


 カイとレイラは無言であったが、しばらく廊下を歩いているとカイが話し始めた。

「すいません勇者様」

「いえ、カイさんが謝ることではありませんよ」

 まあ、あいつらはもう自身の中にあるぶっ殺すリストに載ったのは確定ではあるが、と心の中でレイラは付け加える。


「そう言えば勇者様には先代の勇者様であるルミル様について話していませんでしたな」

「ルミルさんですか?」

「はい、ルミル様です。そして、ルミル様についての話しは、彼等のあの非礼な態度とも関係があるのです」

 そこでレイラの肩がピクリと動いた

「先代の勇者が、あれらと関係あるんですか?」

「はい」

 それを聞いて、レイラのぶっ殺すリストに先代勇者の名前が書き込まれた。


「先代勇者様はとても慈悲深く、そして無駄な犠牲を出さない人でした。街の復興にしても、ラナケロスにいた悪人達を退治するにしてもです。それを実行できる能力と精神力が有りました。ですが、あの方は完璧過ぎたんです」

「完璧ですか?」


 カイが遠い目をしながら続きを話す。

「普通、どんな勇者でも失点や欠点はあります。勇者を現人神として信仰する場合、まずそこが大事だと普通は教わっていきます。人であるのだから欠点があるのは当然だと。しかしルミル様には、その欠点がなかった。結果として、この街の人間は勇者という存在に期待しすぎる傾向が出来てしまったのです」


 レイラが少し考える。カイの話しの内容を解りやすいレベルにまで落として例えると、つまりこういう事かと納得した。


「つまりこういう事ですか? この街にいるファッキン共の考えだと勇者様は完璧で無敵、僕らに犠牲なんて出さないでトラブルをすぐさま解決してくれちゃう凄いヒーロー。年頃の少年少女が妄想する無敵のヒーローと同じ存在なんだよって事ですか?」

「そう言うことです」


 ふざけんな! レイラは本気でそう思った。

 レイラが冒険者ギルドの職員として働いている時に、いわゆる隊商の護衛任務や、小さな村や集落に出没する魔物討伐の依頼なども幾らか扱ったことがある。


 その程度の依頼であったとしても、襲撃を受ければ村や隊商に被害が出るのは当然だ。そもそも、非戦闘員の集団を守ると言うのは、味方がよほどの大人数でもない限り、先手を打たれた時点で弱い部分から被害が出るものである。

 その上でレイラは、今回の場合に置き換えてみた。レイスほどの高レベルの悪霊が一般人が密集している建物に突如現れました。被害無しで切り抜けられるか? ちなみに味方は自分とカイ神殿長、つまり二人だけ。どう考えてもできるわけがない。


 カイが申し訳なさそうに言ってくる。

「すいません勇者様。本来なら、もっと早く話すべき事だったのですが、よほどのことがなければ大丈夫だと甘く見すぎていました」


 まあ、いきなり悪霊が現れて市長以下、街の要人達を多数惨殺するとは誰も予想は出来ない。しかし確かに予想は出来ないが、事前に話しておいて欲しい内容ではある。


 とりあえずレイラは気持ちを切り替えた。

「では、これから私が絡みそうな事件では、町の人間達に犠牲が出ないように気をつけなければいけない、と言う事ですか?」

「そうですね、先程も言いましたが勇者という存在に期待しすぎるのは、この街全体の傾向なのです。少しでも犠牲が出れば、街の人間たちがどんな行動に出るのかわかりません」


 レイラは非常に嫌な気分になる。特に先代の勇者に対して、ちゃんと街の人間達を躾けておけと山のように文句を言いたい気分だ。


 そうして、カイとレイラが庁舎の建物まで外へ出ると――

「うわぁ……」

「これは!」


 外へ出た二人の目に飛び込んできたのは、エデンから溢れ出てきた死霊共がラナケロスの街を蹂躙している光景だった。

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