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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第四十八話 レイラは勇者として頑張る

 レイラ・パープルは思っていた。なぜ自分はこんな所にいるのだろうかと。

 ライラの街で、ギルド員として働いていた自分はどこに行ったのだろうか。なぜ、こんな場所で聖剣に選ばれた勇者なんぞをやっているのだろうか。そう本気で疑問に思っていた。


 体格も小柄で、戦う術といったら聖剣から流れ込んでくる不思議な力に振り回されて戦っているだけ。大体、勇者に選ばれるまでは剣どころか武器になる物と言えば、厚さ1000ページ超の辞典か、フォークとナイフくらいしか持った覚えがない。

 そんな自分が、なぜこんな場所にいるのだろうか、レイラは本当に疑問に思っていた。しかし少なくとも、そんなレイラでもわかる事はある、それは――


「勇者様、そいつは高レベルアンデッドのレイスです!」


 自分の目の前にいるアンデッドを倒さないと生きて帰れないだろうと言うことだ。


 

 現在、レイラの周囲は地獄であった。


 この日、予定していた市長との面会を終えたレイラは、そのまま市長側が用意していたパーティーへと出席する事になる。このパーティーは神殿長のカイや副神殿長のゴードン等を含めた街の要人たちを一手に集めた催しだった。

 

 市庁舎のホールを利用した、この催しは最初のうちは成功を見せる。用意された豪勢な料理にレイラが舌鼓を打ち、挨拶とばかりに近づいてくる鼻の下伸ばした要職のオッサンどもに心の中で嫌な顔をしながら、そつなく対応をしていく。そんな平和な光景が続いていた。


 それが一変したのは突如、床から高位アンデッドのレイスが現れたからである。


 その高位アンデッドは歪な形をしていた。

 丸まった団子の様な全身は、縦と横幅が二メートル近くはある。団子状の身体を構成しているのは人間のパーツであり、複数の人間の骨や内蔵含む全身が集められて作られている。余っている頭や手足等は、その団子状の体の外枠につけられていた。そんな醜悪なアンデッドが突如この場所に現れたのだ。


「は?」

 まず、犠牲になったのは市長だ。彼は何が起きたのかも分からず、レイスの胴体にくっついている手に頭を握り潰された。ブシャッという血が飛び散る音がすると、恰幅の良かった市長の身体が地面に倒れる。


 そこで悲鳴が沸き起こった。周りにいた人間達が目の前に現れた化物の存在と、そしてその化物に市長が殺されたことを理解したのだ。 

 混乱の坩堝となった会場で、人々が一斉に出入り口の扉へと向かう。ある人は前にいる人間を押し退け、ある人は転び、ある人は転んだ人間を踏んづけて。我先にと逃げようとしている。


 そうして、人間達が部屋を出ていこうとすると、レイスが動き出した。この場にいる人間達を一人も逃さない。そんな悪意を込めながら、レイスが人間達に向けて自身の胴体にひっついている手を一本だけ、部屋の扉方向へと向けた。


 レイスの身体に引っついている手。団子状の身体についているそれは、普通の人間の手に見えた。太くもなく細くもない。男の物か女の物かもわからないような物だ。レイスは姿形そのものは異形であるが、一つ一つのパーツは人間の身体を模しているからだ。が、しかし、レイスの手が突然膨れ上がると、巨大な豪腕となって逃げ惑う人々に襲い掛かった。

  

 丸太ほどの太ささにもなった手が急激に伸びると、入り口へ向かって逃げていた人々を引き裂いていく。レイスの手には、触れたものを腐らせる固有の魔法がかかっており、無論、その手に触れた人間達も同様に腐り、引き裂かれていく。


 扉に向かって逃げていた人々の半数近くが今のレイスの一撃で死ぬか瀕死になっていた。腹に大穴が空いた老紳士。首が半分ちぎれている妙齢の女性。胴体の四分の一は欠落している青年。

 そんな、凄惨な場面を見た人々は理解した。この化物は自分たちを逃す気がないのだ、そして全員ここで殺されてしまうのだと。と同時に人々は思い出す、この場に勇者と呼ばれる女性が居る事に。


 バッとその場にいる全員が一人の女性、レイラを見る。それはすがりつくような目であったり、期待を込めた目だった。誰もが無言でレイラに語り掛けている。あの化物を倒してくれと。


 そして、ここで冒頭の部分へと巻き戻る。



「勇者様、そいつは高レベルアンデッドのレイスです!」

 神殿長のカイがレイラに敵の正体を教える。彼は、腰が抜けて地面に座っているゴードンや、逃げ遅れた周りの人達の盾になるように構えていた。

 

 どこまで行ってもお人好しなカイを尻目にレイラはしみじみと思った。あんな化物と戦いたくねーと。

 だってそうじゃないか、あのどこまで行ってもお人好しなカイ神殿長みたいな奴らと自分は違う。そりゃあ少しくらいは他人への情はあるが、人々の為にとか正義のためにとかで強敵に立ち向かう気概なんて自分にあるわけがない。


 しかし、それでもレイラは聖剣を手にして、レイスへと立ち向かう。どのみち、レイスは、この場所にいる全員を殺す気なのだ。ならば立ち向かって戦う以外に自分が生きる道はない。彼女は、なけなしの勇気を振り絞ってそう決意する。


「勇者様、レイスの手には触れないでください! レイスの手には触ったものを腐らせる固有魔法が掛かっています」


 カイがレイラにアドバイスをしてきた。ちらりと見れば、先程レイスの手に吹き飛ばされた人達の遺体が腐り始めていた。


「魔力への抵抗力が少ない人間は触れられただけで全身が腐り落ちます。抵抗力の高い人間でも接触した部分の腐敗は避けられません」

「そっすか」

 ぶっちゃけ、なけなしの勇気を振り絞って立ち向かうレイラにはありがたくない話だった。戦う上では必要な情報なのかもしれないが、メンタル的にはレイラを追い詰める情報である。


 聖剣の切っ先をレイスに向けるレイラ。腰は及び腰に成り、剣先も震えていた。顔からは緊張で頬を伝って汗も流れ落ちている。彼女が強敵相手に命のやり取りを行うのはこれが初めてだった。


 そんなレイラがレイスと対峙すること数十秒、先に動き始めたのはレイスの方だ。レイスの図体、人を複数集めて丸めて作り上げた様な身体が、少しだけ沈む。と、次の瞬間、レイラに向けてレイスが体当たりをしかけてきた。


 縦横二メートル近い巨体がレイラに向けて突き進んでくる。途中にあるテーブルや椅子などを弾き飛ばして、十メートル近くあったレイラとの距離を一瞬で縮める。


 あ、わたし死んだ。レイラがそんな感想を持って呆然としていると、聖剣の剣先がレイスと接触した。

 誰もがレイラの死を予感する。しかし、違和感はすぐに訪れた。あの巨体からの体当たりを受けたレイラが、その場から動いていないのだ。体格差から見ればありえないことだった。


 これにはレイラ自身も驚いていた。へっぴり腰でガクガクと剣先震えているだけの自分がレイスの体当たりを受け止めたのだ。だが、すぐに原因はわかった。聖剣の切っ先が光り輝いてレイスの巨体を受け止めていたからだ。完全に武器単体の力である。


 レイラは聖剣を心の中で完全に褒め称えていた。よし、よくやったぞ、駄目な主人に代わってよく頑張ってくれた、できればこの後もお前の力だけで頼む。レイラは自分を信じるのを止めて、聖剣の性能そのものだけを信じて、レイスと戦うべきだと即座に判断した。


 レイラは別に長い年月を研鑽してきた剣士でもなければ、腕に自信のある騎士でもない。戦いに関してのプライドは特に無いので、武器の力だけで敵を倒せるのなら、それに越したことはないと思っていた。

 

 完全に、剣の力だけでレイラはレイスを攻撃し始めた。見る人が見れば素人丸出しの動きであったが、聖剣の力が強大であるので、敵への効果は抜群である。

 

 レイラの持っている聖剣で切られる度に、レイスの体の何処かが欠損していった。その光景は、一見するとレイラが有利に見えたが、戦っている当人は気が気ではない。なぜなら、相手の攻撃が少し掠っただけでも致命打になるからだ。

 

 レイスが、身体についているその腕を巨大化させる。それも一本だけではなく、複数の手をだ。何本もの巨大な人間の腕が、まるで巨大な鞭のように襲い掛かってくる。

 それらの攻撃だって、聖剣で凌げば確かに防御できるが、レイラ本体に当たればその瞬間に終わる。レイラは、一つもミスできない状況に心の奥底から恐怖していた。顔も泣き顔に入っている。


 一手もミスできない攻防に神経が削がれていくレイラ。もう、周りの奴ら見捨てて逃げようかなとレイラが本気で思い始めた頃、ふいに手に持っている聖剣が輝き始める。そして、聖剣から声が聞こえてきた。

 

――勇者よ、剣を掲げろ――


 その声に導かれる様にレイラが両手に持った剣を上に掲げる。声に対する疑問だとかはまるで考えていなかった。そして、その隙を高位アンデッドのレイスは逃さない。数本の巨腕をレイラに叩きつけてくる。


――剣を振り下ろせ――


 レイラが言われるままに剣を振り下ろすと、不可視の衝撃が聖剣から発生する。それは、高位アンデッドであるレイスを一撃で消し飛ばすほどに巨大な物であった。レイラに向かってきていた巨腕達も、まるで枯れ葉の様にちぎれ飛んで行く。


 レイスを消し飛ばした衝撃が、轟音と共に庁舎の壁をぶちやぶる。そして、二メートル近くあったレイスの巨体が影も形も無くなっていた。代わりに、先程の衝撃波でえぐれた床と、外の景色が丸見えになるほど巨大な穴が空いた、庁舎の壁かそこにあった。


「凄い……」


 そう呟いたのは神殿長のカイだ。彼もレイラにこれほどの力があるとは思っていなかった。と言うか、当のレイラも呆然としている。なに今の? 本当に自分がやったの? と狐につままれた様な顔をしていた。


 そして、他の人間達もレイスが討伐されたことにやっと脳の処理が追いついたのか、自分達の命の恩人であるレイラに向かって駆け寄り始める。その中にはゴードンの姿も見えた。


 彼等の助かった姿を見て、レイラはこんなのも悪くないなと思った。命を掛けて周りを助ける事には言葉にできない達成感がある。事実、レイラも不思議な心地よさを感じていた。彼等を見捨てて逃げなくて本当に良かった、自分は意外と勇者という職業が性に合っているのかもしれない。レイラはそんなことを本気で思っていた。


 そして、周囲の人間達が命の恩人であるレイラに向けて感謝の言葉をかけて――

「なんでもっと早くアンデッドを倒さなかったんだ!」

 こなかった。

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