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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第四十七話 森の奥で発見

 ベルフは森の奥へと走り続けていた。木々は深く、どんどん自然の色が濃くなってきていた。一目散に森の奥へと駆けていくベルフの後ろから、黒い霧のようなものが追いかけてくる。死霊の集合体であるレギオンであった。

「ちっ、しつこい」

『ベルフ様、前方からもレギオンが来ます』

 サプライズの忠告通り、ベルフを塞ぐように前方からレギオンが現れた。ベルフは両手に持っている剣で、前を塞ぐレギオンを袈裟斬りにする。ベルフの剣に切られたレギオンが光となって消えていった。剣に宿っている対アンデッド能力の賜である。


 敵を倒したことに安心したベルフ、しかしそのベルフの不意を打つように今度は横から別のレギオンが現れた。

「ぬおっ!」

 その不意打ちをベルフはかろうじて鎧で受け止める。鎧とレギオンがこすれる不快な音が辺りに響く。

 何とか致命傷は免れたベルフだったが、その衝撃で少し足を止めてしまう。そして、後ろからやって来るレギオン達がそれに合わせる様にベルフを十重二十重に取り囲んだ。


 レギオン達が哭いている。獲物であるベルフを捉えた喜びからか、それともベルフを哀れんでのことかは知らないが、彼等は哭いていた。

 そして、ベルフはそのレギオンの態度にムカついた。

「なにを死霊如きが勝ち誇っているんだ、サプライズ特大の魔法をぶち込んでやれ」

『あいあいさー』

 ベルフの身体から特大の雷が迸る。その雷はベルフの前にいたレギオン達を焼き尽くすと、包囲されているベルフの逃げ道も作り出す。ベルフもその隙を逃さず、即座にその逃げ道を使って、その場から抜け出した。


 再び再開されたレギオンからのベルフ追走劇であるが、ふとベルフは立ちくらみを覚えた。

「お?」

『しまった! ベルフ様、魔力切れです! 先程の魔法で魔力の残量が限界近くまで来ました』

 

 サプライズはベルフの体内にある魔力を使って魔法を使っている。エデン探索当初から常時身体強化の魔法をベルフへ使い続けていたので、サプライズが思っていたより遥かにベルフは魔力を消費していた。


『ここから先は探知機能も節約して身体強化のみに魔力を使います。できるだけ早く、あのレギオン達を振り切ってください』

「俺もそうしたいが、ちょっと難しそうだ」

 ベルフはそう言うと走り続けるのを止めた。別のレギオン達がベルフの前を塞ぐように立ちはだかっていたからだ。魔力切れ寸前のベルフにとって、これは致命的だった。

 

 ベルフが舌打ちを一つすると覚悟を決める。身体強化の魔法が切れる前に、前後のレギオン達を殲滅することを決意した。

 レギオンに囲まれたベルフが剣を構える。ベルフの持っている剣に刻まれた聖文字が持ち主の覚悟に応えるように輝き始めた。


 しかしその時、森の奥深くからドンっという衝撃が駆け抜ける。


 それを受けたベルフがバランスを崩したように地面へと倒れた。森の木々からは葉が散らばり落ち、空気を揺らすような、その衝撃は森全体へと波及していく。しかし、最も影響を受けたのはレギオン達だ。


「なんだ!?」

『わかりません! ですが、死霊達が森の奥へと吸い込まれていきます』


 ベルフを取り囲んでいたレギオン達が、今の衝撃を合図にして、一斉に森の奥深くへと吸い込まれていく。それはまるで、巨大な口に吸い込まれていくような、黒い霧の姿であるレギオン達が森の深部の方へと消えていく。


 何かを哭きながら森の奥へと消えていくレギオン達を、ベルフは呆然と見ていた。すると、ポツポツと上から雨が降ってくる。ザーザーと降り注ぐ雨に、ベルフは上を見た。天井には相も変わらず、偽物の青空と太陽が映し出されている。


『雨ですか。恐らくですが、この森の火災に反応して、エデンのシステムが鎮火させるために振らせているのでしょう』


 サプライズの言葉にベルフは反応しない。それよりも、レギオン達が消えていった森の奥の方へと目線を向けていた。

「行くしか無いよな」

『そうですね、ここで行かないのはありえません。私も、この先に何があるのか知りたいとは思っています』

 サプライズの言葉にベルフも決心がついた。

「それなら行くか」

『行きましょう』


 剣を鞘にしまい込むとベルフは森の奥深く、レギオン達が吸い込まれた方へと歩き始める。

 最初の内は何が出るのかと警戒していたベルフだったが、次第にその警戒の色を薄めていった。なぜなら、森の奥へ行くに従って、自然が深くなり、普通の獣や虫達しか出てこなくなったからだ。


 森の奥に行けば行くほど生物が死霊達に侵されていない。ベルフは、そのことに疑問を持ちつつも、尚も歩みを続けていく。どれくらい歩いただろうか。雨も止み、濡れていたベルフの髪も乾き始めた頃、ベルフはついに目的地らしき場所へ辿り着いた。


 その場所は酷く静かな場所だ。森の中にぽっかりと開いた空き地、ベルフがたどり着いたのはそんな場所だった。その空き地は木々に遮られていない為か日の光が上から降り注いでいる。周りの森が薄暗いこともあって、その場所に降り注ぐ光がやけに神聖な物にベルフは思えた。そして――


「あれが原因か」


 ベルフがそう呟く。

 その空き地には一体の骸骨が胡座を掻くように座っていた。見る限りでは骸骨は生前着ていたであろう薄茶色の布を纏っている。骨だけになった手には杖が握られており死の寸前まで強く握りしめられていたことが分かる。


 他には見るべきものはない。ただその空き地には禿げて地表が剥き出しになっている地面と、その骸骨がいるだけだった。

『ベルフ様、ベルフ様』

「なんだサプライズ?」

『あれやっべーです。ちょっとあの骸骨を探知してみたんですけど、あの小さい体の中に超弩級の魔力が宿っています』


 ベルフがその言葉に再度骸骨を見る。物言わぬ骸は、見ている限りでは、ただの骨に見えた。サプライズの言葉に興味を覚えたベルフが骸骨に近づこうとする。

『ちょっと待ってください、本当にやばいんです。並のアンデッドじゃありませんよあの骨。絶対に刺激しないでください』


 サプライズからの忠告も耳に入れず、ベルフが空き地の中に足を踏み込んだその時だ。ベルフは、身体に何かが纏わり付くような感じを覚えた。それは水というより、粘性の何か。そこには空気しか無いはずなのに、手足にまるで粘液のようなものが纏わり付くような錯覚を覚える。

 

 驚いてバッと後ろに飛び去ると、ベルフは空き地にいる骸骨を見る。今の得体の知れない何かは、あの骸骨がやったとアタリを付けた。


 ベルフの額から冷や汗が伝う。そして、そのベルフにサプライズが震える声で語り掛ける。

『ベルフ様、ちょっと信じられないことを言って良いですか?』

「今、俺も信じられない体験をしたばかりだ。それに関することならいくらでも言っていいぞ」

『あの骸骨が放つ魔力の余波だけで、魔力が物質化しています。本体が特に魔法を使っているわけでもないのにです』


 ベルフが真面目な顔をして悩み始める。腕を組み、ふむ、と状況を推察し始めた。

 そんな風に悩んでいると、ベルフが何か思いついた様に閃く。


「サプライズ、俺が推測するに、この周囲に死霊達がいないのは、あの得体の知れない骸骨の力だと思っている。お前はどう思う?」

『うーん、まあ先程のレギオン達がいなくなった現象に、さらにこの場所では死霊達がいない事も考えると、その可能性は高いとは思います。まあ、まだ確定したわけではありませんが』 


 その言葉を聞いて一つ頷いてから、ベルフは自身の考えを述べる。

「サプライズ、俺の見立てでは、このまま探索を続けてもエデンからの出口を見つけるのは難しいと思う。もう体力も魔力も心許ないし、一日で探索するには、エデンという場所は広すぎる」

『確かにそうですね。このまま探索を続けても出口を見つけるのは難しいでしょう』

「そこでだ、俺はどこかに休憩地というかキャンプ地を作りたいと思っていた。死霊達に襲われずにゆっくり休憩できるための場所をだ」

『はあ、そうですか。それがどうしたんです?』

「と言うわけで、この場所は、その休憩地にぴったりだと思わないか?」


 サプライズがベルフに言われて周りを探知機能で調べる。たしかに、ここは理想的な場所に見えた。死霊達はいない、食料となる動植物もいる、探せは水の溜まり場もあるかも知れない。得体の知れない骸骨はいるが、むしろ、あいつのおかげで死霊達がいなくなっているのならば尊重はしても、退治する意味もない。


『た、たしかに、これは盲点でした!』

 サプライズの言葉に、ベルフがふふんっと調子に乗る。

「それだけじゃない、ここには建築魔法で建物を作る為の木材も豊富にある。つまり、後はわかるな?」


 サプライズはベルフの言わんとする事がわかった。彼女はベルフが左腕に巻いている多目的リストバンドから、震える様な機械音声で言った。

『ここに作る気ですか、ベルフハウスを』

「そうだ、ここに作るんだ、ベルフハウスをな」

 

 こうして、ベルフはエデンに自らの拠点を作ることに成功する。

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