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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第四十五話 クソみたいな主人公

 エデンへと続く階段。そこにベルフは座っていた。片手で頬杖をつき、じーっと階段下を見つめている。もう何時間になるだろうか、ずーっと同じ体勢だった


『ベルフ様、これからどうしましょうか』

「ああ」


 サプライズがベルフを気遣って話しかけるが、ベルフは生返事だ。

 閉じ込められた直後から、ベルフとサプライズは階段を塞いでいる石の蓋を動かそうと頑張っていた。


 サプライズが雷の魔法を放ったり、ベルフが石蓋を動かそうとしたのだが、石蓋は、びくともしなかった。あちら側から溶接されているのかは知らないが、これはただの石ではなさそうだ。

 他にも、建築魔法を使い、ここから脱出しようとしたが石蓋どころか周囲にある壁すらも操る事はできなかった。このエデンにある壁も特殊な物なのか一筋縄ではいかないようだ。

 そうして、万策尽きたベルフは、こうして、じーっと座っているだけになってしまった。


『一応、水と食料は道具袋に入っていますが、これも二日分と言うところです。すぐに水も食料も尽きます』

「そうだな」

 ベルフの生返事は変わらない。ずーっと階段下を見つめている。


 そんなベルフをサプライズが心配している。彼女があれこれと語り掛けるがベルフは生返事のままだ。そうして、サプライズが無駄な努力を更に一時間程続けると、不意にベルフが立ち上がった。

 彼は何かを決心した顔付きでサプライズに語り始める。


「どうやら、俺は間違っていたみたいだ。サプライズ、俺が何故この街に来たかを覚えているか?」

『ラナケロスに来た動機ですか? えーっと』


 この街に来た動機? はて、なんだったのかとサプライズが思い返す。

『確か、この街にいる腑抜けてしまった悪人達に、野獣のような獰猛さを取り戻してほしいからでしたっけ?』

「いや、それはこの街に来た後の話だ。俺が、この街へ来た動機は悪徳の街と呼ばれたラナケロスで、デンジャラス気分を楽しみたかったからだ」


 ベルフの言葉を聞いて、そういやそうだったとサプライズは思いだす。

『そういえばそうでしたね。それが何か?』

「その上でサプライズ、あれを見ろ」


 ビシッとベルフが指差すその先には、悪霊の塊であるレギオン達が何かに阻まれるように立ち往生している姿がある。まだベルフを狙うのを諦めていないのか、件の悪霊達は元気よく活動していた。


『あのレギオン達がどうしたんですか? まあ元気いっぱいに活動しているのは見ていて好感が持てる所ではありますが』

「エデンとは、あんな奴らがたくさんいる場所だ。それは悪徳の街と呼ばれていた頃のラナケロスよりも危険な場所だと思わないか?」


 まだ納得の行かないサプライズが疑問に思いながら言った

『確かに危険といえば危険ですね。それがどうしたんです?』

「まだわからないのかサプライズ。つまり、エデンこそ俺の遊び場所として相応しい場所だったんだよ」


 そのベルフの言葉で、サプライズに衝撃が走る! ベルフの背後に稲光のような幻覚も見えた。

『そ、それはっ、いや、たしかにその通りです!』

 ベルフがにやりと笑う。

「そうだ、俺は間違っていた。こんな素敵な場所を街の人間達の安全やら死後の安らぎやらのために壊していいと思ってしまったことにだ。表のラナケロスは見てのように腑抜けてしまったが、ここは違う。この場所こそ、この街で唯一、価値のある場所だったんだ」


 その言葉に、サプライズは主人であるベルフを過小評価していたと痛感する。

 なるほど、確かに見方によっては街の人間達は死後も魂をエデンに囚われて地獄そのものといった苦しみを味わうだろう。しかし、それが全てベルフを楽しませるために使われるとしたらどうだろうか。


 ベルフの暇つぶし相手として、この場所で悪霊として活動できるというのなら彼ら悪霊どもにとっては、これ以上無いほどの名誉である。只の人間如きが死んだ程度でベルフの役に立てるというのなら、地獄の苦しみ程度は対価として低いくらいだ。

 サプライズはベルフの言葉から、ここまで判断した。


『申し訳ありませんベルフ様。私もまだまだ青かったようです。常人の価値観で物事を判断していました……』


 サプライズが悲しみの声を絞り出す。ベルフ一筋だと思っていた自身にも、まだまだ心の隙があった。レイラやカイ、もしくは自身を作り上げた人間社会の価値観に知らず知らずの内に囚われていたのだ。

 その怒りと悔しさに、サプライズの何かが解き放たれた!


――――雌プrgラnmmmmmmがががレベルaaa上mata―――


 ベルフの身に付けている多目的リストバンドからサプライズの雌プログラムのレベル上昇音? が聴こえてくる。

 ただし、今回はいつぞやと違って何かがバグっていた。ナノマシンである彼女に課せられている、ありとあらゆる論理的な意味での束縛から解き放たれた証拠である。


『もう大丈夫ですベルフ様。今ならこの街にいる奴ら根こそぎ殺し尽くしてエデンの糧にすることもできます』

 サプライズの元気な声にベルフは笑顔になる。頼れる相棒が元気を取り戻してくれて何よりだと思っていた。


「じゃあ、別の出入り口を探しにエデンへ潜るぞ」

『別の出入口ですか。たしかに探せばあると思います。エデンには本来、出入り口が東西南北と四ヶ所あるはずですから、しかし――そこまでいけますかねぇ……』


 サプライズの懸念は最もだった。悪霊が大量にいる中で数キロメートル。下手すれば十キロメートル近く歩く必要がある。それも仲間はおらず、たった一人での強行軍だ。


『どちらにしても今日はもう寝ませんか? 一度出発すれば休むこと無く戦い続けることになるでしょう。今の内にできるだけ疲れは取っておいたほうが良いかと』


 サプライズの言葉にベルフも少し考える。

「そうだな、今日は休んで明日出発にするか。ああそうだサプライズ」

『なんでしょうか』

「邪魔が入るのも無粋だから、あの石蓋もっと強固にして外から開けなくさせる事はできるか?」

 と、ベルフが指差したのは、ここに閉じ込められる原因となったあの石の蓋だ。今も階段の出入り口をがっしりと閉ざしている。


『ふむなるほど。開けるのではなくて更に閉じさせるのですか。確かに、あれが開く時はベルフ様を閉じ込めた敵がやって来る時くらいしかありませんね。どうせなら外から絶対開けられないようにしたほうが良いかもしれません。ちょっとお待ち下さい』


 んむむーとサプライズがうなり声を上げる。サプライズの本体はベルフの身体の中に宿って姿が見えないので、基本的にサプライズの声はベルフが身に付けているリストバンドから、機械音声として発せられていた。でありながら、妙に人間っぽい声色を出せているのは、無駄なところで高機能だからだ。


『お、お、建築魔法で何とか行けそうです。石蓋やこの階段はともかく、ここの外側にある周囲の土は操れそうです』

 その言葉にベルフが満足げに微笑む。これで他の奴らに邪魔されることはなくなった。


「よし、ならサプライズは、そのまま石蓋の外側に土でもなんでも良いから被せまくって他の奴らが入れないようにしてくれ。絶対に誰も入れないようにだ、頼んだぞ」

『任せてくださいベルフ様!』


 サプライズが、んむむーと、またうなり声を上げながら作業を始めた。その声を聞きながらベルフは壁にもたれかかると、階段の上で器用に身体を斜めに寝かせる。


 後は寝るだけだと目を瞑ろうとしたベルフはレギオン達の方を見てふと気がつく。

 松明に照らされたこの場所で、先程ベルフが付けた壁に付けたX字の印。レギオン達は、そのX字の印をほんの少し超えてこちら側に来ていた。


「どうやら俺の気のせいじゃなかったらしいな」

 ベルフはそう呟いて目を閉じると、そのまま意識を眠りの中へと落としていった

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