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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第三十九話 レギオン

 地下へと続く長い階段をベルフは降りていた。

 ボロ小屋の中で発見された階段は、人一人どころか数人が降りても平気なくらい広かった。

横幅も高さも普通の階段程度はある。いや、そもそもこれだけの広さがあると小屋全体と同じくらいの横幅はありそうだ。


「サプライズ、もしかして、あの小屋が建てられたのはこの階段を隠したかったからか?」

『それはあるかも知れませんね。誰の仕業かは知れませんが、そこまでして隠したかった理由はわかりませんが』


 コツ、コツとベルフは松明を片手に降りていく。火に照らされて見える限りでは周りの壁はところどころ苔に覆われていた。足元の階段はたまに虫が這いずっている程度で、それ以外は普通に石造りの階段だ。そして、それだけではなく、他にも目につく物があった。


「なあサプライズ、あの光は何だと思う?」

『それも不思議なんですよね、あそこがこの階段の到着点というのは間違いないのでしょうが……』


 サプライズが、ベルフの装備しているリストバンドを介して疑問の声を出す。ベルフ達が階段を降りていく遥か先に光が見えている。それは白い光で、多少の光源とは思えないほどの強い光に見えた。


「サプライズ、探知機能で念のためにこの先を事前に調べておいてくれ。ちょっと嫌な感じがする」

『分かりましたベルフ様、しばらくそちらの作業に集中します』


 そう言うと、サプライズは沈黙した。その間にもコツ、コツとベルフは階段を降りていく。そうして歩いて行くと、点にしか見えなかった階段先の光が、次第に大きく見えてくる。もう、階下まで階段の残りも数十を切った頃、探知機能に専念して無言になっていたサプライズがベルフに話しかけてきた。


『ベルフ様、この先はどうやら広い空洞になっているようです。そして、ちょっと様子がおかしいというか、とにかくもうすぐそこですし、説明するより見て貰えばすぐにわかると思います』

「ふむ、わかった」


 そう言ってベルフは階段を降り切る。手に持った松明も必要のないほどの光が目に入り込んでくるとベルフは少しだけ手で目を覆った。そして――


「なんだこれは……」


 そこにあったのは外の景色であった。空に太陽が輝き、青い空と白い雲が流れている。目の前には平原、少し遠くには森が見える。ウサギや鹿のような動物が駆け巡り、蝶や虫達が花や草木目掛けて飛んでいる。


「サプライズ、ここは間違いなく地下だよな?」

『はい、間違いありません。ラナケロスの街、地下七十メートル地点です。どう考えてもこんな景色は考えられません』

「ならこれは幻覚の類か?」

『いえ、動物や昆虫などは本物だと思います。ただ、上に見える太陽や雲にはからくりがあるとは思いますが』


 ベルフは、その光景に疑問を持つが、取り敢えずその不思議な空間に踏み込もうとした。しかし

「!?」

 違和感を感じてベルフはピタっと足を止める。そして、違和感の正体はすぐに分かった。先程まで平原を元気に駆け巡っていたウサギも、鹿も、蝶や昆虫までも動きを止めてベルフの方を一斉に見ている。

 不思議な事に、羽ばたいていない蝶や跳躍の途中の鹿などが宙に止まったままだった。地に落ちるでも無く、まるで宙に張り付いたかのように止まっている。


『ベルフ様!』

「わかってる」

 ベルフは腰に付けている鞘から剣を抜くと両手で構える。そして、目の前に見えている生き物たちの姿が変わり始めた。

 

 可愛らしい兎も、鹿も、蝶も、その体が沢山の黒い粒になって空中に散らばっていく。まるで大量のハエが飛び立つ様な異音を鳴らしながら飛び回るそれは、大きな一塊になるとベルフ目掛けて飛びかかってきた。


「チェリャア!」

 ベルフが部屋の中に飛び込みながらすれ違い様にその塊を剣で斬る。しかし、まるで砂を斬ったような手応えにベルフは効果がないことを悟る。


『ベルフ様、普通の武器は通じないみたいです、ここは任せてください。雷の魔法術式起動、サンダー行きます』


 そう言うと、サプライズが宿主であるベルフの魔力を使って雷の魔法を放つ。ベルフの身体から放たれた魔法の雷は黒い塊にぶつかると、その黒い粒達を焼き尽くしていく。何かが焦げていく音と匂い、そして

「「オオオオオオオオォォォォォォォォォォ」」

 大量の人の悲鳴のような声に、ベルフが顔をしかめる。


『やりましたベルフ様、とりあえず一旦立て直しましょう』

「ああ、そうだな!?」

 と、そこでまたベルフは驚愕する。よくみれば生き物達だけではなく、森の木々たちの様子もおかしくなっていた。先程は普通の木々が立ち並んでいただけの森であったが、今はその木々一本一本に、まるで人の目のような物がビッシリと浮き上がっている。

 そして、例に漏れずその目は全てベルフの方を向いていた。


「なるほど、動物や昆虫達だけじゃなくて、植物達も偽物だったってわけか」

『そんな、確かに探知した限りでは本物の動物や植物だったはずです……』


 そうして、先ほどの動物達と同じように木々も黒い粒に変わっていく。ただ、今回はその量と形状が違う。先程は一つであった黒い塊だが、今回は十近く、その黒い塊が現れた。しかも、それらの姿は人の手のような形になっている。


「サプライズ逃げるぞ」

『わかりました! 肉体強化魔法も全力で掛けます』


 そう言うとベルフは階段の方へ向かってダッシュで走る。階段を降りてきた時のゆっくりペースとは違い、サプライズの支援魔法まで受けたベルフは、飛ぶような勢いで階段を駆け上る。そして、そのベルフを追ってくるように黒い手が何匹もベルフの背後から追いかけてきた。


 松明も投げ捨てて、必死に階段を駆け上るベルフ。後ろから来る気配を肌で感じながらも只管に走っていると、ふいに追いかけてきた黒手達が動きを止めた。それらは名残惜しそうにその場に残ると、去っていくベルフを眺める様に立ち尽くす。


『ベルフ様、もう追ってこないようです』

「念のため、このまま小屋まで戻る、サプライズは後ろを見張っていてくれ」

『わかりました』


 そうして駆け足で小屋まで戻るベルフ。息を切らせながら階段を登りきると、倒れ込む様に床に寝転がる。

『もう大丈夫ですベルフ様。あいつら追ってきません』

「そうか」

 ベルフは話すのも辛そうなほどに疲れていた。顔からは汗が滴り落ち、息も激しく切れている。指一本動かすのも億劫だという感じだ。サプライズと話したいことは山ほどあったが今は休憩を優先している。


 そうして数分ほど休み、ベルフの息も落ち着いた頃、サプライズがベルフに語りかけた。

『ところで、念のために今日は小屋から離れますか? もしも寝ている時にあいつらが攻めてきたら少しまずいですよ』

「いや、その心配は無いはずだ。もしもここまで追ってこれるようなら、最初からあいつらはこの階段伝いに地上へと這い出ている。と言うより途中で俺達を追うのを辞めた理由が他にない」


 ベルフは、あの黒い塊達が地上まで追ってくるのは不可能だと踏んでいた。

「それよりあいつらはなんだサプライズ」

『おそらく予想ですが、あれはレギオンかと思います』

「レギオン?」

 ベルフが聞き慣れない単語に疑問の声を出す。

『悪霊の塊、人の無念の魂の集合体。戦場や処刑場など人の死があふれる場所でたまに出てくる存在です。魔物というより、正確に言えば人の魂の集まりと、そこから発生される魔力で作られた存在ですが』


 ベルフは鞘からサーベルを引き抜くとその刀身を見る。レギオンを切ったそのサーベルは刀身がボロボロで、まるで錆びて朽ちたような姿になっていた。


「あれに触れると、このサーベルみたいになると見て良いのかサプライズ?」

『はい、レギオンの恐ろしい所は、その攻撃力です。その身体を構成する魔力の一粒一粒が鉄よりも硬く、それが高速で移動することで対象をヤスリで削るように削ぎ落としていきます』


 ベルフは手に持ったサーベルを投げ捨てた。どっちにしても、この剣はもう役に立ちそうにない。

「最初、探知機能であいつらの正体が、わからなかった理由もレギオンだからか?」

『いえ、それは関係ないと思います。恐らくですが、あの場所そのものに私の探知機能を妨害する何かがあるんだと思います』


 ベルフは少し考える。彼に備わっている狂人としての勘が警笛を鳴らしていた。それも、あの場所に近づくなとか、関わるなとか、そういうレベルではない。この街から、いやこの国からすぐに逃げ出せと言っている。あの場所を見た時、何かが決定的に手遅れになっていると感じたのだ。


「ライラの街に残してきたリリスとミナを回収してこの国を出るか? いやあいつらが聞くわけないか、レイラの説得も難しいしな」

 ベルフがぶつぶつと呟く。

『あの雌豚共がどうかしたのですか?』

「いやなんでもない、とりあえず今日は休んで明日になったら、あの悪霊達に通じそうな新しい武器でも探しに行くか」


 ベルフはそう言うと仰向けになりながら、ん~っと身体を伸ばした。

『それは良いのですが武器の宛てはあるのですか?』

「何を言っているんだ? ほら近くにあるだろ、神官達が集まっていて神聖な武器がありそうなところが」


 ベルフの言葉にサプライズが、あっ、と言う声を出した。確かにそういやあったわ。

『ありましたね、神官達が集まっていて悪霊どもに効きそうな武器が集まるところが』

 そう、その場所とはもちろん

「そうだ、神聖な武器が集まりそうな場所がそこにあるんだよ、ラナケロスの神殿と言う俺達の宝箱がな」

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