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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第三十七話 自警団

 部屋を包み込んでいた光も収まるが、部屋の中にいた人間達はまだ動きを止めていたままだ。全員、レイラの方を見て呆けている。

 そうして少なくない時間が経過した後、誰かがポツリと言った

「勇者様だ……」

 その言葉を皮切りに室内がざわつき始める。幾らかざわついた後、爆発したかのように歓声が沸き起こった。


「勇者様だ! 新たな勇者様の誕生だ!」「聖剣の封印が解かれたぞ!」「あのお方は誰だ」「新しい勇者様は女性の勇者様だ!」「まるで女神様だ、外見もなんと美しい!」


 ワーワーと騒ぎ立てる外野達。凶行に走っていたベルフの事なんて誰も覚えてない。

 レイラは、えっえっとうろたえて顔を左右に動かしている。自身が持っている剣が、聖剣パールそのものだと、ここでようやく気がついた。


「これはなんなんですか、ベルフさんちょっと助けてください」

 レイラがベルフの方を向くとベルフがハンマーを杖代わりにして、レイラを遠巻きに見ていた。微妙に距離が遠くて手助けができない位置だ。あ、こいつ第三者気分でこの状況を楽しむ気だ、とレイラは即座に看破した。


『勇者レイラ様おめでとうございまーす』

「おめっとござまーす」


 それだけではない、サプライズとベルフから祝福のメッセージが聴こえてきた。

 伊達にレイラも数週間、ベルフ達と一緒に居たわけではない。ベルフ達が聖剣叩き折ることに飽きて、自分をからかっておもちゃにしようとしている事を理解していた。


「あいつ捕まえて」


 栄えある勇者様から民へ向けた第一声。それはベルフの捕縛命令であった。

 勇者様の命令とあって、先ほどとはやる気が違う、ついでに聖剣の勇者様が現れたと知って部屋に人が集まっていたので人数も違う。

 数十人以上の屈強な男たちと女達がベルフへと殺到すると、ダンゴムシの様にベルフを取り押さえた。隙を突かれたベルフがしまったという顔で地面に押し付けられている。レイラ、会心の反撃であった。



「てめえはこの中に入ってろ!」

 自警団員が、ベルフを牢屋の中に蹴り入れた。神殿で捕まえられたベルフはその後、満場一致で自警団に突き出される事になった。


 牢屋は薄暗く、檻の中には現在ベルフ一人だけだ。カビ臭い牢屋の中は、簡素なベッドと用を足すための汲み取り式のトイレがあるだけだった。


 街のシンボルとも言える聖剣を全力でハンマーで叩き壊そうとしたベルフは現在、重罪人として扱われているのだ。

 そして、そんなベルフへの扱いについて、サプライズは激怒していた。

『おらー! なめてんじゃねえぞこの愚民どもがー!』

 サプライズの怒声が、この階の牢屋全体に響き渡る。


『あの程度、私の魔法で全員黒焦げにできた所をベルフ様が止めたから、おとなしく捕まってやったんだぞ! ベルフ様への態度を改めないとこの建物にいる人間全員、丸焦げにするぞコラァ!』


 しかし、サプライズの言葉に看守からの返事は返って来ない。その代わりに、この階層の他の牢屋からうるせえぞだの、黙れだの、他の囚人からヤジだけは飛んできたがそれだけだ。

 それにぷっつんキレたサプライズ。自警団の建物ごと滅ぼしてやると、雷の魔法を発動させようとすると、そこでベルフが止めた。

「よせサプライズ、捕まったのは俺が油断していただけだ。それに、今のタイミングで暴れると後がまずい」

『しかしベルフ様……』


 そう、サプライズの攻撃魔法を使えば今回だけではなく、自警団に連れてこられるまでに幾らでも反撃のチャンスはあった。しかし、加減をしたとしてもサプライズの魔法では一般人程度、容易く殺傷してしまう。さすがのベルフも民間人の中に死亡者が出ては、もっと状況がまずくなるとわかっていたのだ。


『ではベルフ様、これからどうしましょうか。手下三号は八つ裂きにするとして、この街に対して、どのような報復を成し遂げましょうか』

 サプライズは、さり気なくレイラを八つ裂きにすると宣言した。

「とりあえず、今夜辺りには脱出する。あいつらもお前の存在には気づいてないから、簡単にできるだろう」


 そう、サプライズはベルフの体に寄生しているだけなので他人には見えない。現在、音声を発しているのも、ベルフが左腕に装備している多目的リストバンドから発しているだけだ。サプライズさえいれば魔法で牢を壊すなり、身体を強化して怪力のままに鉄の檻を捻じ曲げるなり幾らでもやりようがある。


『わかりました、では今晩辺りに脱出しましょう。その後についてはどうします?』

「それについても問題ない、隠れるのに良さそうな場所をここに来るまでに目にしたからな。それと、だ」

 ベルフは一拍置いてから

「その後は、聖剣のやつも叩き折るとしよう。あれを折ったら街のやつらがどんな顔をするのか、楽しみじゃないか」


 ベルフは聖剣叩き折ることを諦めてなかった。

 こいつは人生に無駄な部分で根性を発揮するタイプなのだ。

『それは良いですねベルフ様。とりあえず没収された剣や鎧も回収しつつ、当初の目的も果たしますか』

 牢屋の中で一人と一体のナノマシンが悪巧みを開始した。



 自警団の本部。この街の治安の重要な部分を担うこの場所は、街の繁華街にあった。建物はそこそこ広く、三階建ての建物には述べ数十人以上の自警団員が常に待機している。

 地下には囚人達を入れる牢屋もあり、軽犯罪の罪人は地下一階、重罪人は地下二階に入れられていた。


 そんな自警団の建物にある一室で若い団員二人が、机の上に置かれている鎧を欲のくらんだ目で見ている。

「お、その防具凄いな。あの囚人が持っていたやつだろ?」


 魔金属で作られている、その鎧は青く輝いている。かなり価値ある代物だと一目で分かった。

「そうそう、あのベルフとかいう奴のだ。このまま置いておくのはちょっと惜しいなと思ってよ」

 二人はベルフの鎧に魅せられている。これほどの一品物は見たことがないのだ。


「鎧がこれだってことはよ、剣の方はどうなんだ」

「あーそっちはな……」

 そう言うと、今度は剣の方を机においた。こちらはなんの変哲もないサーベルだった。期待していた方の団員ががっくりと肩を落とす。


「なんだよ、これじゃあ当たりの戦利品は一つじゃねえか。で、当然だけどお前も鎧が欲しいんだろ?」

「当たり前だろうが!」


 戦利品。そう、捕まえた囚人達から巻き上げた物品の分配である。

 無論、これらは褒められた事ではないが上の人間たちもこの程度なら良しと黙認していた。自警団員たちのガス抜きにもなるし、彼等への臨時のボーナスにもなる。

 だがしかし、今回のベルフの鎧のような一品物になると、ちょっと事情が違ってくる。なぜかと言うと――


 自警団員の二人が争っていると、ふいに部屋の中に一人の男性が入ってきた。

 歳の頃は四十半ばくらい。皺が刻み込まれた中年の自警団員だ。

 中年の自警団員は顔が少し赤くなっている。直前まで何処かで酒でも飲んでいたのだろう。

「おー、やってるな。ん? おいおい、凄い鎧じゃねえか……お前ら、その鎧は誰のものかわかってるよな?」

「だ、団長。その、これはですね」


 争っていた二人がバツの悪そうな顔をする。できれば、彼が来るまでに鎧の分配を決めて起きたかったのだ。自警団員にも序列があり、一品物や価値あるものになると上の人間達が優先的に掠め取っていく。そして、この中年男性は自警団の中でもトップであり、つまりはそういう事である。


「ほら、お前らはその貧相なサーベルでも分け合ってろ。ほう、本当に良い鎧だ、これは売ればかなりの金になるぞ」


 自警団の団長は目をキラキラと輝かせて、机の上の鎧を見ていた。

 先程の二人は肩を落とすと、鎧について諦める。どうやら鎧の分配先は完全に決まったらしい


「こんな良いものはあれだな、勇者がこの街に来る以前、俺が強盗団のトップだった頃に冒険者を捕まえたとき以来だ。いや、あのときの装備品よりも良い物かも知れねえな。まあ、あのときは装備品だけじゃなくて、捕まえた冒険者その物も売れたから、もっと金にはなったか。それに、女の冒険者もいたから楽しめた分もあるな」

 自警団の団長は、欲に目がくらんでいるのか饒舌になっている。


「ほう、自警団の団長が元強盗なのか?」

「あん? この街は悪徳の街と呼ばれていた街だぜ? 俺に限らず、歳取ってるやつは脛に一つや二つ傷があるのは当然だ。まあ、目立ってた奴らは全員勇者に殺されたがな」

「ほーん、そうなのか」

「こんなもんこの街なら常識だろ、なに説明させてやが……」

 

 と、そこで団長は気づいた。この声は誰のものだ? そこの二人の声じゃないぞ。

 団長が机の上においてある鎧から目を離して声のした方を振り向くと、そこには一人の青年がいた。

 ボッサボサの黒髪にやる気の無さそうな目。右手には机においてあった先程の貧相なサーベル。そう、牢屋から脱出したベルフである。


「武器と鎧を回収しにきただけなんだが、中々良い話が聞けたなあ」

『ですねえ。しっかしこの街も中々腐ってますね。見てくれは立派ですが中身はゴミ溜めでしたか』


 団長が周りを見ると、仲間の団員二人が地面に倒れて気絶していた。彼等はベルフの奇襲を受けて最初にやられていたのだ。

「てめえ、脱走しやがったか!」

 団長が腰につけている鞘から剣を抜き放とうとするが、それよりも早くベルフの左拳が団長の顔に突き刺さっていた。そのまま、顔面を拳で振り抜かれた団長は、体ごと吹き飛んで壁に激突する。

 

 ベルフにぶん殴られて大怪我一直線でぶっ倒れている自警団の団長は放っておいて、ベルフはさっさと目的である鎧を回収して身に付けた。自身が殴り倒した相手なんぞ見捨てるに限るのだ。

 情け? しらねーなあと言う価値観で彼は生きている。


「よーし、じゃあここから脱出して身を潜めるか」

 元気いっぱいという顔でベルフは宣言した。近くにはベルフがぶちのめした自警団の団員たちが死屍累々で気絶して転がっているが、そんなもんは全く気にしてない。

『そうしましょうか。で、隠れ家に適しそうな場所があると聞きましたがどこですか? 少なくとも私にはわかりませんが』


 ベルフはサプライズの質問に答えた。

「ああ、神殿の近くに良いあばら家があったからな。そこに隠れようと思ってる」

 

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