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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第三十二話 レイラはベルフに復讐を決意する

 レイラ・パープルは、とある商家の長女として生まれた。

 裕福ではなく、中小の規模と言える商家。父も跡取りの兄も、才能が乏しく、出る目の薄いごく普通の商家だ。

 

 周囲に凡才しか居ないそんな環境の中で、しかし、レイラは女だてらに秀才と言える能力を持ち合わせて生まれてくる。彼女は小さい頃から物覚えもよく、更には、その頭の回転の速さは子供ながらに大人達を唸らせる程でもあった。

 少しきつい眼をした、利発で才能あふれる才色兼備の少女。外見の美しさも相まって、レイラへと向けられる周囲の期待は非常に大きかった。


 そんな彼女が家を出たのは十七の時だ。


 自他共に優秀だと認めるレイラであったが、彼女は父親からの受けが悪かった。どれだけ結果を見せても、どれだけ利益を上げても、父親はレイラを認めない。そうしている内に家長である父親は、レイラの兄を跡取りとして正式に指名する。

 自身より愚鈍な兄が跡継ぎとして選ばれたことで、レイラは怒りに任せて、家を出てしまった。


 そうして、レイラは幾らかの伝手を頼った結果、ライラの冒険者ギルドへ就職することになる。


 冒険者ギルドに就職するとレイラはその要領の良さもあって、メキメキと頭角を現していった。

 ギルドマスターであるララにも気に入られた彼女は、若輩者ながらギルド職員をまとめる主任としての立場にまで上り詰める。


 順風満帆の出世街道。誰もが羨む彼女が躓いたのは、ベルフとかいうクソ野郎のせいだ。

 レイラが考案した、下級冒険者に報酬を与えず、いかに洞窟の魔物と戦わせるかの罠に奴は掛からなかった。

 それだけではない。ベルフの仲間達が洞窟の魔物退治に成功したので、下級冒険者二人に四万ゴールドもの破格の報酬を渡す事になった。


 これだけなら、ギルドマスターのララも周囲も、レイラの失点とは言わなかった。別に、少数の下級冒険者が魔物退治の依頼を成功させる程度なら、失点というよりも不幸な事故程度にしか思われない。しかし、問題はレイラが起こした次の行動である。

 レイラは、懇意にしていた冒険者のリークスに金を握らせて、ベルフを痛めつけるよう頼んでいたのだ。


 その結果、リークスはベルフに返り討ちに会い、更にはリークスのパーティーを巻き込んで冒険者同士での殺し合いが発生した。


 とは言っても、冒険者同士での殺し合いは珍しくない。報酬の横取りから、ダンジョン内での喧嘩。ときには、ただの口喧嘩から血みどろの乱闘にさえ発展する。

 故に、ダンジョン内は治外法権が基本であり、それについては問題ない。


 だが問題は、冒険者だけではなくてギルド職員が間接的に関わっている事がまずかった。しかも、彼女がリークスを使ってベルフにちょっかいを掛けたのは、単純にベルフがむかついたから、ただそれだけらしい。


 そう、レイラの父親は、娘の事をよく見ていた。

 曲がりなりにも商売人として人と接してきたレイラの父親は、弱小の商売人だったとしても一角の人生経験はある。娘のレイラが、その才能とは裏腹に、人としての器が非常に小さい事を看破していたのだ。


 いくらライラの冒険者ギルドが腐っているとはいえ、レイラの行動は、やりすぎていた。そうして、ギルド内部から突き上げを食らったレイラに更なる悲劇が降りかかる。

 沈黙の洞窟が大蜘蛛に占領されてしまったのだ。

 

 沈黙の洞窟はライラを支えるダンジョンの一つであり、ここから取れる鉱石の価値は都市の経済的にも決して無視できる物ではない。


 更に、レッドオーク討伐隊が疲労と人員不足から土蜘蛛を見逃したことが、大蜘蛛大量発生の原因だと判明すると、レイラに向かって、とある非難が突き刺さった。

 リークス達がベルフ達と仲違いしていなければ、土蜘蛛を倒す余裕が冒険者達にあったのでは? と言う非難だ


 なまじ、リークス達が優秀な冒険者達だった事も、レイラの向かい風になった。リークス達が健在ならば土蜘蛛は倒せただの、こんな事態にはならなかっただのと、レイラに向けて矢のような非難が突き刺さる。


 そうして追い詰められた彼女は、自身の進退を賭けて、冒険者たちによる土蜘蛛と大蜘蛛の討伐作戦を提案、主導した。が、しかし――



 ガタンゴトン、ガタンゴトン

 馬車がライラの街から出発した。それに客として乗っているのはベルフと、俯いて馬車の中に座っているレイラ・パープルだけである。

 ベルフが宣言したようにレイラは、手下三号としてベルフに仕える事になった。

 

 そう、先程までの話に出ていたレイラ・パープルとは、ギルドの、あの女性職員のことである。ベルフとサプライズは、その口約束通り、彼女を三人目の手下としてこき使う事にしたのだ。


 ベルフは、ぼさぼさに生えている頭髪を風に揺らしながら馬車から外を眺める。


「ライラの街が小さくなっていくなー、で、これから向かう街は、あのラナケロスで良いんだな?」

『はい、確かそう言う名前の町だったと思います。おい、そこの雌豚三号、いつまでうじうじしているんですか、とっとと顔を上げなさい』


 雌豚三号こと、レイラはサプライズの言葉に答えない。

 今のレイラは、ギルド職員のスーツを着ていなかった。彼女の貯金から叩いて買った革鎧と、ショートソードを装備している。

 長く揃えて伸ばしていた栗色の髪は肩に掛かるまで切っていた。髪が冒険の邪魔になりそうなので、髪型をショートカットにしているのだ。

 剣など使ったことのない彼女であるが、冒険者になると言うことで一応、装備や身支度を整えている。


 そんな、馬車で一人俯いているレイラは、街から追い出された時の事を思い出していた。


 レイラが自身の進退をかけて挑んだ大蜘蛛の討伐は、冒険者たちが街まで逃げ帰ってきた事で完全に失敗。言い訳など一切許されず彼女はギルドをクビ。


 そうして、ギルドをクビになった彼女は、生きる目的をなくしていた。

 実家を家出同然に飛び出して数年。こんな失態まで犯したのでは、実家も彼女を迎え入れはしないだろう。

 だからと言って、実家に帰らずこのまま過ごすにしても、この街に自身の居場所なんてどこにもない。度重なる失態で、レイラの名前は悪評として街中に広がっていた。


 呆然としていた彼女は、ふと思い出す。ベルフが自身を手下にすると言っていたことを。


 彼女の心の中に、熱いものがこみ上げてきた。それは、彼女の奥深くから湧き上がってくる激しい感情。そう、ベルフに対する憎しみである。


 自身がこうなったのは何でだ? ベルフがこの街に来たからだ。

 リークスが戦闘不能になったのは何故だ? ベルフがリークスを倒したからだ。

 土蜘蛛と大蜘蛛の討伐で、冒険者達が逃げたのは何故だ? ベルフが自分の邪魔をしたからだ。


 全て逆恨みであるが、レイラはそう思わなかった。

 レイラの父親が看破したとおり、レイラは人としての器が非常に狭いのだ。

 暗い焔に焦がされた彼女は、ベルフの元へと向かう。ベルフの仲間として彼に近づくために。


 レイラ・パープルはベルフ・ロングランに復讐を決意する。

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