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第二話 新天地

 ベルフが住んでいたロングラン領の街から遥か西に進むと、とある都市が存在する。冒険都市ライラ。低難易度ダンジョンである、囁きの森と沈黙の洞窟の二つのダンジョンを所有している冒険都市だ。


 ライラの街には、魔物や盗賊などから街を守る為に、高さ数メートルの壁が都市全体を囲う用に建てられている。


 街の出入り口にあたる都市門は、出入り口用の大きな通り道が二つ。片方が街に入る道で片方が街から出るための道だ。通行の便を考えて作られていた。


 さて、ライラが冒険都市と呼ばれているのには理由がある。低難易度ダンジョンである、囁きの森と不屈の洞窟の二つのダンジョンを所有しているからだ。


 ダンジョンそのものを所有している都市は珍しくない。しかし、低難易度のダンジョンを複数所持しているとなると、この近隣ではライラしか無い。


 低難易度のダンジョンは、初級の冒険者だけではなく、ベテランの冒険者達が歳を取って最前線から身を引いた後の稼ぎ場としても人気があった。


 その為に低難易度のダンジョンがあれば冒険者が多数集まる。その結果、魔物討伐やダンジョンからの採取などで定期的に多くの素材が街へと還元されるのだ。


 分かりやすく言えば、ライラは金と人と素材が集まって大賑わいという状況である。ちなみに、ライラにはもう一つ、高難易度ダンジョンである霧の湖もあるが、こちらは今は関係ない場所だ。

 

 そんなライラに一台の馬車がやってきた。ロングラン家の家紋である、長靴のマークが車体に刻まれた馬車だ。

 

 そのロングラン家の馬車はライラの街までやってくると、ペっと言う擬音が鳴りそうな勢いで一人の男を街の大通りへ放り出した。


 その捨てられた男こそ、この作品の主人公ベルフ・ロングランである。


 そのまま産業廃棄物、もといベルフを街の大通りに置き去りにすると馬車は街の中へと消えていった。


 ベルフは身体を起き上がらせると周りを見渡す。

「サプライズ、いま何時だ?」

『現在、昼の十三時。マスターが捕まってから三日と十二時間ほどが経過しております』


 ナノマシンのサプライズは現在、ベルフが左腕に装備しているリストバンドから音声を発している。このリストバンドは元々サプライズの住処だった事もあって、様々な拡張機能が付いているのだ。


「ロングラン領からここまで三日か、まあ妥当だな。しかし、ジジイの逃げ足は流石だったな。あいつは年季が違う」

『はい、マスター』


 ベルフ達が思い出すのは故郷の街を追いだされた時のことだ。


 故郷の街で、ベルフ盗賊団は順調に物品を強奪していった。ロングラン家の名前を盾に使い、歯向かうものには権力と言う名の暴力を傘にして黙らせる。数日と言う短い時間ではあったが彼等は、ありのままの人生を謳歌した。


 人生、八十年。数日とは言え、法も、周りの人間も完全に無視して生きることを誰が出来るだろうか。それは誰しもが夢見るが、胡蝶の夢のように儚く夢想して消えるものだ。だがしかし、彼等はやった、やり遂げた。


 公営の武具屋からは価値ある一品物から、店主が横領の末に購入した観賞用の名刀までぶん取った。雑貨屋からは秘伝の薬から、店の裏帳簿まで探しだした。酒場からは百年物の名酒から、違法な奴隷売買の証拠まで根こそぎ掠め取った。

 ベルフ達は、いま挙げた全ての物を懐に入れてやった。


 俺が、俺達がこの街の支配者だ。

 ベルフ、サプライズ、ジジイのそんな暴れっぷりに感銘を受けた、街のロクデナシ共も騒ぎに加担。

 善人の面被った悪人だけでなく、マジモンの善良な市民の悲鳴も世界へ轟かせた所で、ベルフの兄が指揮する兵士達によってジジイ以外は全員御用になった。


 結果としては、領主であるベルフの父が領民に土下座すると言う、レアな光景も展開したのでベルフくん的には大満足。ついでに、捕まっても全く反省していないベルフの態度が父と兄の逆鱗に再度接触。


 ただし、ベルフが奪い取った品物の幾つかが悪人達の犯罪の証拠と成り得たので、功罪の相殺を考えて隣国の都市である、このライラまでベルフは強制追放となった。


 ベルフは当時のことを思い出すと感心したように言った。

「ジジイの逃げ足はすごかったな。あいつは年季が違う」

『はい、あれは間違いなく慣れている手合ですね』


 一人だけ上手く逃げ出したジジイの事を二人は思い出す。あいつは年季が入ってた。


「さて、じゃあまずこれからどうするかだな……サプライズ教えろ」

『冒険者になるのならば、まずは冒険者用の装備を手に入れるべきだと進言致します』

 

 そう、現在のベルフは持っていた貴族用の服とポケットの五十ゴールドしか手持ちがない。

 故郷の武具屋で巻き上げてきた装備はどうしたって? 捕まった時にベルフの父親達に取り上げられたわ。


「だが、装備品を揃えるのにも金がない。ついでに宿屋に泊まる金もない。サプライズよ、どうすればいいと思う?」


 ベルフからの問いかけにサプライズが答える。

『ならば、現在身に着けている服を質屋に売りましょう。見ればかなり高価な生地で作られている服です。装備品を揃えるための資金にはなるでしょう』


「ほう……」

 ベルフの瞳が怪しく輝いた。


「いいだろうサプライズ、その進言受け入れる。まずは質屋探しから始めるぞ」

『了解いたしましたマスター』


 ベルフは街の大通りを我が物顔で歩き出す。冒険都市ライラ、新天地での冒険者生活に胸を踊らせながら。


こっちもちょっとだけ改稿

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